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近年、人気が高まっていた高級食パン専門店が、転機を迎えている。店舗数が急速に増え、競争が激化。総菜パンを取り入れるなど商品構成を見直したり、海外に出店したりする動きが出ている。ロシアのウクライナ侵攻などによる小麦価格の高騰も響きそうだ。
街のパン屋に転換

千葉県を中心に姉妹店を含めて10店舗を展開する「あせる王様」。五井店(千葉県市原市)には、平日の昼間でも主婦や家族連れがひっきりなしに訪れる。2斤で税込み864円の高級食パンに加え、塩パンやメロンパンなども並ぶ。市原市の会社員(43)は「特別な日に食べる食パンと、おやつのカレーパンを使い分けられていい」と話した。

あせる王様は2020年夏に食パン専門店として初出店したが、昨夏からは総菜パンも扱う五井店をオープンするなど、普段使いできる「街のパン屋」への転換を進めている。1店あたりの売り上げは伸びており、運営会社の増子範幸専務は「今は選ぶ楽しさがある分、来店頻度が増えた」と話す。
市場に飽和感
転換の理由の一つが、競争の激化だ。高級食パンは、13年に創業し、全都道府県に出店した「乃が美」が草分け的な存在だ。耳まで柔らかい「生食パン」の人気に火が付くと、競合店も急増した。
調査会社「富士経済」の調べでは、20年の食パン専門店の国内市場規模は300億円。前年から3割以上増えたが、コロナ禍によるお土産需要の低下などで首都圏の既存店は苦戦しているという。市場は23年に400億円まで拡大するが、それをピークに緩やかに縮小すると予想している。
18年創業の「銀座に志かわ」は19年に47店を出店。約120店舗を構えるまでに成長したが、今年の新規出店数は3月末時点で3店舗。今月は4店舗の出店を計画しているが、広報担当者は「一過性のブームが終わり、当店の人気も定着してきた。今後の出店ペースは緩やかになっていく」と話す。
ブームの一段落を受け、新たな販路開拓に挑む動きも出てきた。乃が美は先月、台湾の台北に海外1号店を出店。銀座に志かわも海外出店を検討している。
小麦高騰もじわり
ウクライナ情勢の悪化などによる小麦価格の高騰も懸念材料だ。銀座に志かわは今月1日から10%値上げし、2斤で950円とした。「一本堂」も2月、新商品などの一部を除いて1斤あたり20円値上げした。
消費分析に詳しいセンスクリエイト総合研究所の藤原裕之代表は「高級食パンにふさわしい素材や製法の店だけでなく、ブームに乗り、価格と価値が見合わない店も見られるようになった。値上げもあり、消費者の選別は厳しくなっている」と指摘している。