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    【人財編】長時間労働もう限界

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    人財編(5)

    際立つ男社会、変革の時

    • 残業を終えた職員を乗せ、深夜に財務省を出発する帰宅バス(1日午前0時30分、財務省で)
      残業を終えた職員を乗せ、深夜に財務省を出発する帰宅バス(1日午前0時30分、財務省で)

     1日午前0時半。東京・霞が関の財務省庁舎の中庭から、5台のバスが連なるように出発した。終電後まで働く職員のために、財務省が1984年から運行している「帰宅の足」だ。

     行き先は、東京北部の「十条・赤羽」、南西部の「目黒・世田谷」など5方面。37人が分乗した。隣接する外務省や金融庁の職員が利用することもある。車内灯に照らされた顔には疲れの色が浮かぶ。

     最終便は、7、8月は午前1時45分。ほかの月は午前3時。なぜ、長時間労働が常態化しているのか。

     国会の会期中は、議員の質疑への対応に追われる。役所が与野党議員の質問内容を事前に把握する「質問取り」を始めるのは、夜になることが多い。翌日の国会日程と質疑者が夕刻に確定するまでは動けない。

     質問取りを終え、担当課が答弁づくりに着手するが、「時間内に収まりそうにない大量の質問が用意され、意味もつかみづらい場合がある」(財務省幹部)。上司らのチェックを経て答弁を完成させる頃、とうに日付は変わっている。公務員の負担を減らすための見直しが叫ばれてきたが、遅々として進まない。

     国会が閉じた夏場もバスは走る。財務省の本省職員の残業時間(2016年)は平均515時間。中央省庁全体の366時間をはるかに上回る。国会対応に限らず、職場に長時間いるのは当たり前。そんな「空気」を職員は吸ってきた。

     「皆が寝ずに働いている中で夜10時に帰ると、針のむしろに座らされる気持ちになった」。あるキャリア職員は声を潜めながら過去の経験を語る。「自分から長時間労働をする人が多い。真面目で完璧主義。とことん調べ、深夜まで働く」。「最強」を自任してきたキャリアの生態だ。

     国家を担っているという過度の自負心は、時に周りを見えなくさせてしまう。

     「仕事さえできれば、私生活はボロボロでもいい。そんな発想が当然だと思っていた」。中途退職した元財務官僚は、役所時代の心理を述懐する。目が覚めたのは、大臣答弁の「てにをは」を巡り、何時間も議論する職場の有りさまに疑問を抱いてからだ。

     「子供を産むと休みを多く取る。『それでも仕事が続けられて楽だね』と言われたことがある」。ある女性職員の経験だ。「財務省はマッチョな男社会。それは、ずっと変わってない」。長期の育児休暇を取る男性職員は、ほぼいない。

     男性が長時間働くことを前提にした組織運営は、限界を迎えつつある。財務省は91年から6年間、キャリア採用の女性が途絶えた。今春入省者は22人のうち6人が女性だ。霞が関で際立っていた男社会も、そろそろ変わらざるをえない。

     7月27日。不祥事にまみれた組織の再生に向け、財務省参与にボストンコンサルティンググループの秋池玲子が就いた。

     「財務省が時代にふさわしい動き方、働き方ができるよう、理想論で終わらない変革方法を見いだす」。秋池は居並ぶ幹部に宣言し、「やりがいが実感できる組織風土をつくっていくことを目指す」と続けた。

     成し遂げねばならない変革とは、ごく普通の国民の感覚に根差した組織づくりなのかもしれない。(敬称略、人材編おわり)

    Q 帰れない職員は A 仮眠室「ホテル大蔵」へ

     Q 財務省の職場環境は。

     A 翌年度の予算編成や税制改正の取りまとめで多忙を極める9~12月には、泊まり込む職員が続出する。地下に仮眠室があり、男性用23、女性用6のベッドが用意されている。すべて埋まることもある。この部屋は、前身の省名と有名ホテルをかけ、半ば自嘲気味に「ホテル大蔵」と呼ばれる。

     同じフロアには、平日の夕方から翌朝まで使える浴室が備わる。ロッカーに着替えと入浴用具を常備している職員もいるという。

     食事は、庁舎内のコンビニエンスストアや食堂で済ませることが多い。

     Q 「働き方改革」の現状は。

     A 幹部向けに職場環境の改善を進めるためのセミナーを開いたり、自宅などで働く「テレワーク」を呼びかけたりしている。毎週水曜日には、庁内放送で早帰りを促している。

     民主党政権下の2010年、菅直人財務相の旗振りで、「平日にデートができる財務省」をキャッチフレーズに長時間労働の是正に本腰を入れた。しかし、「やるべき仕事が多すぎて、勤務時間を減らせない」(若手職員)などの声が多く、取り組みは形骸化した。

    2018年08月18日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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