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    【外交編】通貨マフィアの重責

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    外交編(2)

    国際会議支える「黒子」

     通貨外交の裏舞台。そのプレーヤーである財務官の配下にいるのは財務省国際局の職員だ。1990年代頃まで彼らはこう呼ばれていた。「4階組」――。

     戦時下の1943年に完成した5階建ての財務省庁舎。国際局が陣取るフロアは、大臣室や、大臣官房、主計局、主税局といった「主流派」が並ぶ2階からは、やや遠い。その距離感が国際局を指していた隠語から透けてみえる。

     「一部の英語使いが集う村」(有力OB)。そうしたイメージが省内の通り相場だった。ある国際局幹部は約25年前に入省したとき、「予算が第一で、国際会議は二の次という雰囲気」を感じた。

     「4階」の印象は、今や様変わりした。日本経済のグローバル化は一段と加速し、国際局の主戦場である多国間交渉などの重みが増したからだ。

     7月18日。酷暑の成田を後にしていた浅川雅嗣財務官(1981年入省)は、肌寒いアルゼンチンの首都ブエノスアイレスに降り立った。ミッションは、3日後に控えた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の地ならしだ。

     「通貨マフィア」。各国・地域の通貨政策の責任者は、こう呼び習わされる。

     浅川もその一人だ。到着早々、宿泊先のホテルで中国の財務次官と握手を交わしたのを手始めに、次々と個別面談や会合を秘密裏に重ねた。

     最大のテーマは、トランプ米大統領が仕掛けた貿易摩擦にどう対処するか。会議前日の20日には、Deputy(代理)と呼ばれる次官級幹部の「D会合」に出席。その夜、浅川は現地入りした麻生太郎財務相に情勢報告を行った。

     黒子は一人だけではない。麻生と浅川がステーキをほおばりながら向き合っていた夜、岡村健司国際局次長(85年)は「コミュニケ・セッション」と呼ばれる共同声明の原案作成会議に臨んでいた。

     共同声明は各国・地域の利害がせめぎ合う。緻密(ちみつ)な取りまとめ作業は「ガラス細工」にたとえられる。議長国が会議室の大きなスクリーンに案を映し出し、意見が出ればその場で議論して修正を加える。日本語にすれば数百文字に過ぎない段落ごとに1時間~1時間半もかける。翌日未明まで議論を尽くすこともめずらしくない。

     「閣僚会合以上に各国・地域の本音がにじみ出る」(経験者)という場に、日本は近年、財務官、国際局長に次ぐナンバー3の国際局次長らを送り込む。通貨マフィアへの登竜門だ。

     退官後も通貨マフィアのつながりは続く。「ミスター円」と言われた榊原英資(えいすけ)元財務官(65年)は、かつて好敵手だったローレンス・サマーズ・元米財務長官との親交を今も温める。主だった財務官OBが理事長を務める国際金融情報センター(東京都中央区)は、各国・地域の情報を集める拠点だ。

     通貨マフィアの系譜は、厳しさを増す経済外交にどこまで力を発揮できるのか。次回10月のG20会議を浅川はにらむ。(敬称略)

    Q 財務官ポストとは A 国際部門トップで次官級

     Q 財務官とは。

     A 財務省の国際部門のトップで、事務次官級のポストだ。年間数十回も海外を飛び回り、主要国の実務者らと水面下で交渉を重ねる。その振る舞いから「通貨マフィア」と呼ばれる。

     現在の「財務官」制度は1968年に始まったとされる。近年は、国際通貨基金(IMF)などの国際機関への出向や国際局長を経てから就任するケースがほとんどだ。

     

     Q 歴代の財務官は。

     A 初代は柏木雄介氏(41年入省)。退任後は東京銀行(現三菱UFJ銀行)の頭取に就いた。ここ20年では、円高阻止に向けて積極的な為替介入を繰り返し、「ミスター円」の異名をとった榊原英資氏(65年)や、日本銀行総裁の黒田東彦(はるひこ)氏(67年)らが知られる。黒田氏は財務官を3年半務め、その間に築いた国際金融界での豊富な人脈が日銀総裁への抜てきの理由の一つとされた。

    2018年09月20日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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