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    【論争編】財政審、存在感に陰り

    論争編(1)

    予算議論、経産省に勢い

    • 9日の財政審財政制度分科会。委員と財務省側からの出席者は計50人に上った(財務省で)
      9日の財政審財政制度分科会。委員と財務省側からの出席者は計50人に上った(財務省で)

     中央省庁が政策を打ち出すとき、有識者による審議会で議論を進めてきた。財務省が関わる審議会での「論争」は、国の財政や税制を左右する。その論争の場に変化が表れてきた。変化の流れから、財務省の立ち位置を読み解く。(敬称略)

     財務省4階の第3特別会議室。9日。長机をつないだ卓を50人のメンバーが囲んだ。2019年度予算編成に向け、歳出削減策を検討する財政制度等審議会(財政審)の財政制度分科会。その委員と財務官僚たちだ。

     テーマは、高齢化で膨張しつづける社会保障費をどう抑えるか。委員の目を引いたのが、配布資料に記された専門家の見解だった。

     「予防医療は医療費を削減するのではなく、むしろ増加させる」

     財務省が財政に通じた有識者に発した、バラ色の政策を警戒すべきだというメッセージだ。資料は、吉野維一郎・厚生労働第一担当主計官(1993年入省)と関口祐司・第二担当主計官(94年)が指揮する「厚労部隊」がまとめた。

     食事の管理や運動などで病気になりにくい体をつくる予防医療。安倍首相が2日の内閣改造に合わせて打ち出した「全世代型社会保障改革」で、政策メニューの「本命」と目される。

     健康寿命が延びることは国民にとって望ましい。元気で働ける高齢者が増えると、保険料の収入も増え、医療や年金を支えられるのではないか。そうなれば、高齢者の負担増といった「痛み」を避けることができる――。この考え方を主導するのは、首相官邸に近い経済産業省だ。

     社会保障の分野でも経産省は勢いを増している。今年6月、小渕優子元経産相がトップを務める自民党の「財政構造のあり方検討小委員会」。経産省の江崎禎英(よしひで)商務・サービス政策統括調整官(89年)が、「予防と医療・介護費用の関係」について、精密なデータを基に予防医療が有用だと解説。出席した議員をうならせた。

     こうした動きをけん制したい財務省は、昔も今も財務相の諮問機関である財政審を足場と位置づける。「単年度主義で歳出を切るだけの議論ではいけない。信念を持ち、財政健全化の重要性を国民に伝えられる審議会でなければならない」。財政審の事務局を担う主計局の一松(じゅん)調査課長(95年)は、そう強調する。

     「かかりつけ医以外で受診をした患者に定額負担制度を導入」「新薬の保険適用を巡る費用対効果の検証」……。吉野らが財政審に示した改革案は、国民に痛みを求める内容であるのは疑いない。「経産省は受けの良い政策をつまみ食いする。尻ぬぐいするのは財務省だ」。財務省幹部の恨み節は、予算の査定にあたる彼らの矜恃(きょうじ)でもあった。

     ところが、財務省の地盤沈下に歩調を合わせるかのように、財政審の存在感の陰りを指摘する声が出始めている。「実現できない政策を掲げ、政治決着でひっくり返されることの繰り返しだ」(関係者)。委員の数も増え、9日の会議の出席者は23人。1人5分も話せば時間切れとなる。委員の間でも不満の声は少なくない。

     1950年に設置された財政審は、経団連会長や元日本銀行総裁らが会長に就き、各界の論客が委員に名を連ねてきた。歳出抑制や増税など国民にとって耳の痛い議論も展開し、他省庁から一目置かれる存在だった。「財政構造改革への取り組みが遅れれば遅れるほど、21世紀の我が国の将来世代の苦しみは大きなものになる」。96年12月の建議(提言)が憂えた姿は、現実となった。

     しかし、霞が関の勢力図の変遷とともに、財政を巡る議論の主舞台は「財務省の外」へと移り始めた。予算編成の焦点は、むしろ「場外戦」に参戦できるかどうかにかかっている。

    Q 財政審、過去の建議は A 放漫財政にクギ

     Q 財政制度等審議会とは。

     A 企業経営者や学識経験者らで構成され、財政運営のあり方などを議論する。五つある分科会のうち、財政制度分科会が「主戦場」で、ほかに国有財産分科会、財政投融資分科会、たばこ事業等分科会、国家公務員共済組合分科会がある。通常は春と冬に建議(提言)を取りまとめ、財務相に提出する。春の建議は「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に、冬の建議は年末にまとまる政府の予算案に、反映されることを目指す。建議には、事務方を務める主計局の考えがにじむ。

     Q 財政審の歴史は。

     A 1950年に設置された財政制度審議会が起源で、2001年に現在の形になった。過去の建議は語り継がれる「名言」も多い。老人医療費の無料化の議論を踏まえ、71年12月には「国民の所得が向上した今日、自ら老後生活に備えるという社会的気風を醸成していくことが肝要」とクギを刺した。バブル崩壊後の94年2月には、赤字国債の発行について、「後世代に資産を残さず、(国債の)利払い費等の負担だけを残すことになり、世代間の公平という観点からも問題がある」と指弾した。

     インサイド財務省 論争編(2)はこちら

    2018年10月16日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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