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    【宿願編】2度の延期、苦い経験

     宿願編(1)

    社保充実提案で増税機運

    • 臨時閣議後、記者の質問に答える麻生財務相(15日夕、首相官邸で)=松田賢一撮影
      臨時閣議後、記者の質問に答える麻生財務相(15日夕、首相官邸で)=松田賢一撮影

     安倍首相は15日の臨時閣議で、消費税率を法律で定められた通り、2019年10月1日に8%から10%に引き上げる予定だと表明した。遠慮がちに準備を進めてきた財務省は、「三度目の正直」に向けてフル稼働の態勢に入る。(敬称略)

     「消費増税については今までもやると言っていた。その通り実行されるということだ」

     15日夕。臨時閣議を終え、首相官邸の玄関ホールで記者に囲まれた麻生財務相は平静を装った。

     だが、安倍の「増税表明」まで、財務省内には焦りが募っていた。予定まで1年を切り、事業者の軽減税率制度への準備は間に合うのか。準備不足がスケジュールに水を差すなら、自らが宿願をフイにしかねない。

     ここ最近の財務官僚の動きからは、複雑な心理が見て取れる。

     主税局は表向き、「準備は順調に進んでおり、その動きは広がっていく」と説明していた。ところが、裏では危機感を強めていた。

     「来年10月に向け、レジ改修の準備をきっちり進めてほしい」

     9月21日、東京都内のホテル。星野次彦主税局長(1983年入省)は、スーパーなどが加盟する「日本チェーンストア協会」の幹部らに強く迫った。通常なら課長クラスが出向く会合に星野が乗り込んだのは、「本気度を示すため」(主税局幹部)にほかならない。

     安倍の増税表明には大きな意義がある。中小企業は、準備を進めない理由として「これまで増税は2度先送りされており、今回も実現するかどうか分からない」ことを挙げるところが少なくなかった。

     14年秋。当時予定されていた「15年10月の税率10%」を確実にしようと、財務省は増税の必要性を経済界や有識者に総力で説いて回った。だが、安倍は国内総生産(GDP)の数値が悪化したことを理由に、増税を17年4月まで1年半延期することを決定。省を挙げた「ローラー作戦」は安倍の財務省嫌いを増幅させる結果に終わった。

     16年春。今度は安倍の増税判断を、財務省は見守ることに徹した。安倍が6月に下した結論は「再度延期」。直前の伊勢志摩サミットで、新興国経済の不振で世界経済が「リーマン・ショック以来の落ち込みを見せている」と各国首脳に説明したことが導火線となった。説明資料を作成したのは側近の今井尚哉首相秘書官。直前まで財務省は「今井ペーパー」の内容を知らされることはなかった。

     「ローラー作戦」も「沈黙」も功を奏しない。19年10月に設定し直された増税に、財務省が臨んだスタイルは「提案」だ。

     昨秋。太田充理財局長(83年)と宇波弘貴・総合政策課長(89年)は、増税で増える税収の半分を幼児教育の無償化などに充てる案を首相官邸に示した。ともに「社会保障通」だが、当時は直接の担当ではない。そんなメンバーがまとめたのは、財政再建の本道から離れたプランといえる。この政策を掲げた与党は10月の衆院選で大勝、ようやく増税への機運が高まった。

     14年4月、税率8%への増税は景気を冷え込ませ、安倍を激怒させた。「14年の時は本当に申し訳ございませんでした。失敗は繰り返しません」。今も太田らは頭を下げて回る。

     「リーマン級の景気後退があったら、また増税は先送りされるのか」

     記者の質問に、麻生はこう突き放した。

     「今、そういう状況にありますか」

     10%への道筋は確実となり、3度目の延期は考えにくい。だが、事務方には微妙な空気が流れる。

     「来年は統一地方選や参院選が控える。首相が『延期カード』を行使する可能性は消えていない」(幹部)

     トラウマを抱えた経験から、そんな疑念を拭いがたい。財務官僚の偽らざる本音だ。

    Q 消費増税の歴史は A 5%に8年、8%に17年

     Q 消費税の歴史は。

     A 消費税率の引き上げには長い期間がかかっている。1989年4月に税率3%で創設された消費税が5%になったのは97年4月で8年かかった。5%から2014年4月の8%への引き上げには17年を要している。

     増税は時の政権の体力を奪う「鬼門」となってきた面があるからだ。

     竹下登首相は消費税を創設した後、退陣に追い込まれた。5%に上げた橋本竜太郎首相も消費増税による景気の冷え込みもあり、増税翌年の参院選に敗れ、退陣した。

     Q 国民生活で過去に混乱はなかったのか。

     A 89年の導入前には「1円玉不足」が盛んに叫ばれた。不足を補おうと、神戸市の大学生協が学内で使える「1円札」の発行を表明する騒ぎもあった。8%への増税に際し、必要以上に商品価格を上げる「便乗値上げ」への懸念が高まった。政府は、主婦らの力を借りて定期的に価格を調べる「物価モニター調査」を実施した。

    2018年10月23日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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