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    ヘイト対策条例 都は透明かつ慎重な運用を

     表現の自由を不当に制約することなく、人権侵害の言動を抑止する。それが肝要である。

     ヘイトスピーチ(憎悪表現)対策などを含む東京都の人権条例が成立した。都道府県では初の制定だ。来年4月に施行される。

     2年前に施行されたヘイトスピーチ対策法は、地方自治体にも、地域の実情に応じた施策を講じる努力を求めている。

     2020年東京五輪・パラリンピックを控え、都は、あらゆる差別を許さない五輪憲章の理念を実現するために条例を制定した。ヘイトスピーチ以外に、性的指向による差別も禁じている。

     在日韓国・朝鮮人の排斥を訴えるデモ活動は、都内でも続いている。外国人住民の多い新宿区では一時期収まっていたが、昨年急増した。人の尊厳を傷つける差別行為は許されない。抑止のために、何らかの対処は必要だ。

     都条例では、都の施設利用を制限する基準を設ける。差別的な表現活動と認定した場合には拡散防止の措置を講じ、事案の概要を公表できるようにする。

     対象の施設には、都が申請を受けて利用を認めるホールや公園のステージなどが想定される。

     現実にあった行為を捉えて拡散防止や公表に踏み切ることは理解できる。大阪市は2年前に同趣旨の条例を定めている。

     都条例で疑念を拭えないのは、差別的な言動の恐れがあるかどうか、事前に判定する点だ。

     差別表現の有無の判定に際して、都は識者で構成する審査会の意見を聞く。条例には審査のルールが細かく書き込まれたが、肝心の基準がまだ定まっていない。

     条例制定を前に、都が専門家から行った意見聴取でも、「裁量の逸脱にならないよう、特に不許可とする基準は明確に示しておくことが大切だ」という意見があった。もっともな指摘である。

     「不許可」や「取り消し」を決めた審査の過程を透明化することも欠かせない。都条例は、いかなる政治的立場の知事にも都合よく使われる余地がある。知事による審査会の人選次第で、結論の誘導が可能にならないか。

     京都府と川崎市は、既に施設利用制限の指針を設けている。川崎市の基本方針には「主観的なおそれや抽象的な可能性だけで利用制限をすることがあってはならない」と明記されている。

     都内の区などにも追随する動きが予想される。都には、模範となる慎重な運用が求められる。

    2018年10月12日 06時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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