ハンセン病訴訟 控訴断念を差別解消の契機に

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 家族にハンセン病の元患者がいるだけで、差別や偏見の対象になる。控訴断念を、理不尽な現状を変えるきっかけにしなければならない。

 ハンセン病元患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、安倍首相が控訴しないと表明した。「筆舌に尽くしがたい経験をした家族の苦労を、これ以上長引かせるわけにはいかない」と語った。

 原告らの早期救済を第一に考えた判断と言えよう。

 地裁判決は、国の隔離政策が元患者の家族への差別を生んだとして、政府や国会の責任を幅広く認定した。ハンセン病政策を担当する厚生労働省だけでなく、人権啓発や教育を担う法務省と文部科学省の責任にも踏み込んだ。

 国家賠償に関する時効の起算点について、独自の解釈を示し、原告の救済につなげた。

 このため、政府内には「控訴して上級審の判断を仰ぐべきだ」との意見が強かった。同種の訴訟で1、2審で国が勝訴し、最高裁で係争中という事情もあった。

 法律上の観点などを踏まえれば、政府が地裁判決を受け入れるハードルは高かった。それを乗り越えるには、首相の政治判断が必要だったということだろう。

 控訴の断念で、原告への総額3億7600万円の賠償義務が確定する。今後の課題は、裁判に参加しなかった家族の救済になる。

 今回の訴訟の原告には、元患者の配偶者や子、きょうだいなど様々な立場の人がおり、地裁判決が命じた賠償額は異なった。

 原告以外の家族を救済する場合、元患者とどのような関係にあった人を対象にするのか。差別を受けたことをどう認定するか。救済の枠組みを作る必要がある。

 2008年に成立したハンセン病問題解決促進法は、元患者の名誉回復や福祉の充実をうたった。原告らは、この法律を改正して家族も被害者だと明記し、被害回復を行うよう求めている。

 経済的な補償だけでなく、社会から差別をなくす施策を進めることも政府の責務となろう。

 今回の訴訟を通じて明らかになったのは、家族への差別が、過去だけでなく、現在も続く実態だ。結婚での差別や、職場での嫌がらせに苦しむ人は少なくない。

 差別を社会が許してきたという現実に向き合わねばなるまい。関係省庁が正しい知識の普及や偏見の払拭ふっしょくに取り組むのはもちろん、人権を尊重する意識を一人ひとりが持つことが大切である。

無断転載禁止
681939 0 社説 2019/07/10 05:00:00 2019/07/10 05:00:00

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