訪日客の急増 分散化で観光公害を防ぎたい
完了しました
大勢の外国人が日本を訪れてくれるのは歓迎だが、地域住民の生活に支障が出るようでは困る。訪日客との共生に知恵を絞らねばならない。
観光客の急増による「オーバーツーリズム」(観光公害)が、一部で深刻化している。
観光シーズンの京都市では、訪日客が街にあふれ、通勤・通学客が路線バスに乗れない事態が起きている。神奈川県鎌倉市では、交通渋滞が頻発し、救急搬送が遅れる影響が出ているという。
マナー違反も見過ごせない。観光庁の調査では、トイレの汚れや住宅地でのゴミの投棄、立ち入り禁止区域への侵入などを問題視する自治体が多かった。
早めに対策を打たねば、弊害がさらに大きくなる恐れがある。
政府の誘致策が奏功し、2018年の訪日客は3000万人を超えた。5年で約3倍になった。政府は20年に4000万人、30年に6000万人の目標を掲げる。
訪日客の消費額は、年4兆円を上回る。波及効果は大きい。
問題は、訪日客が特定の時期や場所に集中することだ。分散に向けた取り組みが重要になる。
サクラや紅葉の季節が人気の京都では、JR東海が初夏の「青もみじ」のPRに力を入れる。静岡、山梨の両県は、平日に富士登山するよう呼びかけている。
有名な観光地と周辺自治体が連携し、人の流れを変える新たな周遊ルートを提案してはどうか。
9月に始まるラグビー・ワールドカップ日本大会は、北海道から九州までの12都市が会場だ。知られていない各地の魅力を、世界に伝える絶好のチャンスとなる。
マナーの改善も、粘り強く呼びかける必要がある。掲示やパンフレット、インターネットなど様々な手段を駆使したい。
旅行客は世界的に増えている。オーバーツーリズムは海外の先行事例も多く、参考になろう。
世界遺産「サグラダ・ファミリア大聖堂」で知られるスペインのバルセロナでは、渋滞やゴミ問題により、住民の抗議デモが起きた。中心部でのホテル新設を禁止するなどの措置を講じている。
イタリアのベネチアでは、混雑を嫌う住民の転居が相次いだ。クルーズ船の入港や市中心部への立ち入りを一部制限する。
日本でも、悪影響が拡大した場合、一定の規制はやむを得まい。京都市など宿泊税を導入して対策に充てる自治体もある。有効策を探り、訪日客を気持ちよく迎えられる環境を整えたい。