正倉院展 観る者を魅了する悠久の美

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 悠久の時を経て、継承されてきた宝物の美しさに、魅了される人は多いことだろう。

 奈良国立博物館で、正倉院展が開催中だ。皇位継承の節目にあたる今年は、東京国立博物館でも、特別展「正倉院の世界」が開かれている。

 正倉院の宝物は、8世紀に聖武天皇が崩御した後、妻の光明皇后が、その遺愛品を東大寺に献納したのが始まりだ。シルクロードを通じた東西交易で伝来した舶来品など9000件が、校倉あぜくら造りの正倉院で受け継がれてきた。

 第1回の正倉院展は、戦後間もない1946年に開催された。天皇の許可で扉の開閉を管理する「勅封」という手段で長年守られてきた宝物を公開した。戦禍に見舞われた国民の励みに、との願いが込められていたという。

 かけがえのない遺産の数々を、人々は目にすることが可能になった。その意義は大きい。

 それから70年余、正倉院展の累計入場者数は1000万人を超えた。歴史の愛好家にとどまらず、老若男女、幅広い層に親しまれてきた証左だろう。

 今回、奈良では、中国・唐の高度な工芸技術を伝える「金銀平文琴きんぎんひょうもんきん」などをることができる。東京では、背面に螺鈿らでん琥珀こはくで文様を施し、トルコ石の粒をちりばめた美しい鏡「平螺鈿へいらでんはいの八角はっかくきょう」といった品々が並ぶ。

 宝物は幾多の災害や戦火を免れてきた。鑑賞すれば、歴史の時間軸を感じ取れるのではないか。

 東京で展示中の「螺鈿紫らでんしたんの五絃琵琶ごげんびわ」にも注目したい。実物のほか、装飾を忠実に再現した模造琵琶がある。人間国宝で漆芸家の北村昭斎さんを始め、木工や製糸などの専門家が、8年かけて模造琵琶を完成させたという。

 琵琶の弦には、皇居内の御養蚕所で飼育された日本純粋種の蚕の糸が使われている。蚕はかつて上皇后さまが世話をされた。

 現代の名工たちが力を合わせ、由緒ある材料を使って、宝物本来のつややかな輝きを再現する。古くから日本で用いられた伝統技法を後世に継承する、貴重な取り組みと言えるだろう。

 正倉院の宝物は、文化財研究に大きな役割を果たしてきた。使われた顔料や染料の分析など、宮内庁正倉院事務所が手掛けた研究の成果は広く公開されている。多くの専門家に、大切な知見を提供しているのは間違いない。

 きょうは文化の日。日本の伝統美を保護・保全する重要性を、改めて認識する機会としたい。

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878720 0 社説 2019/11/03 05:00:00 2019/11/03 05:00:00

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