平和と繁栄をどう引き継ぐか…「変革」に挑む気概を失うまい

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 半世紀の歩みを経て、日本で再び、五輪・パラリンピックを開催する年が明けた。自由で安定した社会を築き、「平和の祭典」を迎えられることを誇りに思う。

 自らの意志と力によって、困難や障害を乗り越えていく競技者たちのように、私たちも、さらなる繁栄に向けて前進する気概を新たにしたい。

 前回五輪の1964年、日本は先進国の仲間入りを果たした。高度成長で経済は拡大し、貿易や為替管理の自由化を進め、アジアで初めて経済協力開発機構(OECD)に加盟した。

 海外への観光旅行も解禁された。年1回、外貨の持ち出しは500ドルまでの制限付きだったが、「トリスを飲んでハワイへ行こう」と洋酒メーカーは3年も前から懸賞を募った。

 当時の日本は、戦後の焦土と荒廃した社会の中から奇跡的な復興を果たし、世界との距離を縮めて成長をつかみとろうとする国民的エネルギーにあふれていた。

自信は勇気を生み出す

 あれから56年。国際情勢の変動や経済不況、大規模災害など幾多の試練を乗り越え、日本は今、長い歴史の中でみれば、まれにみる平和と繁栄を享受している。

 世界に大きな戦争の兆しはない。安倍首相の長期政権下で政治は安定している。諸外国が苦しむ政治、社会の深刻な分断やポピュリズムの蔓延まんえんもみられない。

 経済成長率は実質1%前後と低いが、景気は緩やかに拡大している。失業率は2%台で主要国の最低水準だ。治安は良い。健康、医療、衛生面の施策も整う。男女を合わせた国民の平均寿命は84歳と世界トップレベルにある。

 新たな時代へと始動するにあたり、起点とすべきは、多くの国々がうらやむ日本の総合的、相対的な「豊かさ」を正当に評価し、これまでの発展と政治や社会の対応力に自信を持つことである。

 先行きの問題を正確に把握することは最も重要だ。現状に困窮している人もいる。だが、「危機」ばかりが叫ばれ、不安や悲観が蔓延すれば、社会は活力を失う。自信は国民に安心をもたらし、変革に挑む勇気を生むだろう。

 国際政治や経済社会を支える構造は移り変わる。平和と繁栄を維持するには、政策の重点、企業や人々の意識も変えていかねばなるまい。現状に安住はできない。

 日本を取り巻く国際環境の最大の変化は、世界秩序を主導する負担に後ろ向きになった同盟国・米国と、経済、軍事の両面で台頭する隣国・中国との覇権争いだ。

 第1次世界大戦以降、米国は初めて、自国を経済力で上回るかもしれない国家と対峙たいじしている。

 米ソ冷戦と同様、米中対立は長期にわたって緊張と緩和を繰り返すだろう。だが、ソ連と異なり、米中は相互に最大の貿易相手国で直接投資も累積している。台湾、香港など火種はあるが、全面衝突には制御が利くのではないか。

中国に率直にただせ

 日本は、日米同盟の役割と将来像について、米国と改めて認識を共有すべきだ。中国に、日米同盟は揺るがないと理解させ、国際的ルールの順守と日米欧との共存共栄を促していく必要がある。

 習近平国家主席の来日は、日中の対話を深める好機である。「互恵関係」とは、中国を批判しない、という意味ではない。問題があれば、率直にただせばよい。

 朝鮮半島情勢には、なお最大級の警戒が必要だ。北朝鮮は軍事挑発を続けている。局地的な軍事衝突の可能性は排除できない。日米同盟の抑止力は欠かせない。

 米国を世界秩序やアジア太平洋地域の平和と安定に建設的に関与させ、日本の国益を守ることが重要である。米国を説得し、核軍縮、通商、環境など様々な分野で多国間協調の再生に努めたい。

 国内においては、経済を成長させるための「変革」と、社会や民生の「安定」とを両立させる取り組みが、重要な課題となろう。

 成長の鍵は、世界に広がる「経済のデジタル化」への対応だ。

イノベーションの時代

 高速・大容量で、遅れや途切れがほとんどなく、多くの機器を同時に接続できる次世代の通信規格「5G」の商用サービスが、日本でも今年始まる。

 車両、工作機械、医療機器、兵器など、あらゆる製品にセンサーをつけ、インターネット通信で遠隔制御する世界がいずれ来る。

 そこから膨大なデータを集めて人工知能(AI)で解析し、作業の効率化や、まるで違うビジネスに応用することも可能になる。

 変革は、情報通信業や金融業の領域を超え、すべての産業へ広がる。新たな活用法に先鞭せんべんをつけたものが勝者になる。だから米中は通信技術で覇権を争うのだ。

 日本も、技術研究をいち早く実用化するため、大学と企業の連携を質、量ともに拡充すべきだ。社会は何を求めるか。企業の方が察知が早い。大学の組織や人事の閉鎖性を変えねばならない。

 企業も「自前主義」での開発に固執せず、新興企業を含めた異業種、異分野の知恵と技術を幅広く組み合わせる「オープンイノベーション」を加速すべきだ。

 シュンペーターが定義した「イノベーション」という概念は、技術革新という狭い意味の訳語では本質をとらえきれない。

 新技術の発明に限らず、様々な生産要素や生産手段を従来とは異なる形で結合し、新たな商品や組織を創造して社会に変革を起こす、多様な試みを指す。私たちの身近にも変革の種はある。

 デジタル化で新たに加わった生産要素が、高速通信やAI、集積される膨大なデータである。

 中国は国家主導で競争力を高める。途上国にもデジタル経済は急速に広がる。後れはとれない。

 政府は、個人や企業から収集されるデータの公正な利活用や、国境をまたぐデジタル商行為への課税など、競争の土台となる国際的ルール作りを主導すべきだ。

 大量生産、大量雇用の工業化社会の時代は、生産や流通に多くの人間が携わり、利益は賃金などを通して広く社会に分配された。

 デジタル化し、AIやロボットが制御する省力化経済の社会では、新領域で知識やデータを握った勝者に利益が集中しがちだ。

 景気や物価の変動、所得分布や雇用の変化など、経済への正と負の影響を検証する必要がある。

「働く機会」保障せよ

 社会の安定は、経済活動の基盤である。変革が社会に分断やひずみを広げる事態は防がねばならない。民間企業の創意を妨げている政府規制は取り除く一方、弊害を修正する政策も必要になろう。

 産業構造の変化で職種転換を余儀なくされたり、一時的に職を失ったりする人も出るだろう。政府は、デジタル化時代の人材育成を急ぎ、労働者の再教育や再就職の支援も強化すべきだ。

 企業も雇用の促進に配慮し、利益を報酬や配当、投資など様々な形で社会に公正に分配する姿勢が求められる。

 日本は急速な人口減少と高齢化が進む。老若男女問わず、働く意欲のある人ができるだけ長く働ける社会は、活力の礎となろう。官民挙げて創出すべきだ。

 経済や社会を支える働き手が増えれば、介護が必要な一人暮らしの高齢者といった真に困窮する人を支援する力も増す。老後や生活への不安を和らげていきたい。

 社会保障というセーフティーネット(安全網)は、あらゆる人が能力を発揮し、思い切って自己実現に挑戦できる、自由な社会を支えるためにある。

 「年金、医療、介護」にとどまらず、多くの人に「働く機会」を保障する政策をもっと重視すべきだ。子育てと仕事の両立、就職難に見舞われた世代の再挑戦、高齢者の就労などを、きめ細かく支援しなくてはならない。

 企業も意識改革を迫られる。自宅など場所や時間にとらわれずに働くテレワークの導入、再就職や企業の人材補強を容易にする中途採用の拡充、高齢者に適した仕事の創出を進め、人事・賃金制度も柔軟に見直してもらいたい。

問題解決の道を歩もう

 以上のような施策を大胆かつ迅速に進め、長期にわたって成長を底上げする必要がある。

 ただ、国の財政は厳しい。債務残高は積み上がっている。大災害に備えたインフラ改修にも予算を投じねばならない。

 その一方で、民間企業には460兆円の内部留保がある。このうち現・預金が220兆円、5年間で50兆円も増えた。余剰資金を成長への投資に振り向けたい。

 さらに、家計が保有する現・預金は986兆円。株式などを含む金融資産全体では1864兆円ある。この「眠れる資金」を掘り起こして政策に活用できないか。重要な検討課題だ。社会保障や福祉、少子化対策に役立てたい。

 第2次大戦時の英首相チャーチルは「悲観主義者は、あらゆる好機の中に困難を見出みいだす。楽観主義者は、あらゆる困難の中に好機を見出す」という警句を残した。

 戦後日本は、変革を重ねて成長した。政治は福祉を充実させ、労使は協調し、社会の安定を保ってきた。1964年の五輪は、その一里塚だった。

 国民各層が知恵を出し合い、政治が適切な政策を実行すれば、次の時代もきっと、問題解決の道を歩んでいけるはずだ。

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979555 0 社説 2020/01/01 05:00:00 2020/01/01 05:00:00

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