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技術革新に必要な専門人材が広く活躍できる社会をつくりたい。
政府の総合科学技術・イノベーション会議が、若手研究者の支援策を決めた。1人当たり年700万円程度の研究費を最長10年にわたり支給する基金を創設し、奨学金を充実させる。
背景には、技術立国の担い手となるべき若手研究者の間に、
腰を落ち着けて研究できるよう、経済的な支援の充実を図る方向性はうなずける。
生活に苦しむ先輩を見て将来に不安を感じ、博士課程に進むのをためらう学生もいるだろう。修士課程から博士課程へ進学する人は、2003年に約1万2000人だったが、18年には約6000人にまで減っている。
近年、注目される人工知能(AI)や情報技術分野では、高度な専門知識が不可欠で、こうした能力を備えた博士人材への期待は大きい。博士の減少は、日本の研究開発力の低下を招きかねない。
人口100万人当たりの博士号取得者数を見ても、日本は118人で、ドイツや韓国の半分以下の水準にある。科学技術の国際競争力を保つ観点からも心配だ。
自然科学分野のノーベル賞受賞者が、受賞対象となる研究に取り組んだ年齢は平均37歳という。若手がチャレンジしやすい研究環境を整えることが重要である。
日本の大学では従来、教授を頂点とする研究室の仕組みが強固で、若手は補助的な作業や雑務に追われることが多かった。研究室の構造を改め、若手の独立を促し、斬新なアイデアに基づく自由な研究を奨励すべきだ。
欧米では、博士号取得者はその専門能力を評価され、官界やベンチャー企業、調査研究機関など多様な道に進んでいる。一方、日本の企業には、博士はたこつぼ型の研究ばかりしてきて視野が狭く使いにくいといった意識が残る。
企業は博士を長期インターンシップなどで受け入れ、人材の発掘につなげてはどうか。
博士号取得者は、大学の研究職を第一に考える従来の発想を改め、自らの進路について幅広く検討する必要があるだろう。
育成する大学側にも、研究能力とともに、協調性やビジネス感覚など、企業で通用する力を若手につけさせることが求められる。