罵倒の横行 ウイルスより怖い傷つけ合い

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 緊急事態宣言の下で、誰もが不自由な生活を送る中、ネット空間を中心に、すさんだ言葉が飛び交っている。感染症との闘いには、「百害あって一利なし」である。

 ネット上では、今月、帰省先の山梨県で新型コロナウイルスの感染が判明した女性会社員が、激しく罵倒されている。

 感染を知りながら高速バスで東京に戻り、保健所にも虚偽の説明をするなど、女性に反省すべき点はある。だからといって、名前を特定しようとしたり、真偽不明の内容を含んだ書き込みをしたりするのは、一線を越えている。

 ネット空間ではもともと、感情的な言葉が目立つ。コロナ禍でその傾向に拍車がかかっている。

 大阪府泉南市議は「感染者は、高齢者にとっては殺人鬼」とSNSに投稿した。ある芸能人はマスクなしでジョギングする人に言及して、「アホランナーええ加減にせえよ!」と書き込んだ。

 意見の表明は自由だが、面と向かって言えないような言葉を書き込むのは、ネット利用のモラルを欠いていると言うほかない。

 実社会でも他人への攻撃が見られる。自粛要請の中で、外出する人や営業を続ける店舗などを私的な立場で厳しくとがめる「自粛警察」と呼ばれる現象だ。

 都内のカフェライブハウスは無観客ライブ配信のお知らせを貼り出したところ、次に発見したら警察を呼ぶという内容の貼り紙をされた。徳島県では県外ナンバーの車を運転する県民らがあおり運転をされたほか、暴言も浴びた。

 感染拡大を危惧する気持ちから生まれた行動もあるかもしれないが、私的な制裁は健全とは言えまい。こうした状況がエスカレートすれば、いつ誰から攻撃されるかわからなくなり、不安で外も歩けない社会になってしまう。

 日本赤十字社は4月、アニメ動画を公開した。ウイルスより怖いのは、恐怖感に基づく過剰な防衛本能から、「感染はあいつのせいだ」と攻撃を始めることだと説き、人と人が傷つけ合う末に起きる社会の分断を戒めている。

 治療法が確立していない以上、行政も専門家も手探りで対応するしかない。今、必要なのは、誰かに感情的な批判の矛先を向けることではなく、各自が感染しない行動を心がける姿勢ではないか。

 スーパーに子連れで来た親を見た時、子供を家に残せない事情があったのだろうと、相手を思いやる。そんな積み重ねが、ウイルスに打ち勝つ道につながろう。

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1210829 0 社説 2020/05/10 05:00:00 2020/05/10 05:00:00

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