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石炭火力発電への依存度を減らすのは国際的な潮流だが、電力の安定供給に支障をきたすことがあってはならない。政府は、現実的なエネルギー政策を再構築するべきだ。
梶山経済産業相は、二酸化炭素(CO2)を多く出す非効率な石炭火力発電所を休廃止させる意向を表明した。1990年代前半までに建設された約110基のうち、9割程度を2030年度に向けて削減する計画だ。
石炭火力は基幹電源と位置づけられ、電力の32%を賄っている。液化天然ガス(LNG)による火力の38%に次ぐ。休廃止はエネルギー政策の転換と言えよう。
石炭は調達が容易で、コストが安い。安定して発電できる。反面、LNG火力と比べて約2倍のCO2を排出してしまう。
世界では、石炭火力への風当たりが強まっている。フランスは22年、英国は25年、ドイツは38年までに廃止する方針だ。再生可能エネルギーに置き換えるという。
日本の取り組みは消極的だと批判が出ていた。政府が休廃止を打ち出したことは、理解できる。
問題は、代替電源の確保だ。
政府は、新型で効率の高い石炭火力は維持・拡大するとした。全廃を目指す欧州などから、どう評価されるかは不透明だ。
太陽光や風力などの再生エネの主力電源化を急ぐという。だが、時間帯や天候で出力が大きく変動し、不安定だ。日本は島国で、周辺国と送電線網で結ばれている欧州とは事情が異なる。
諸外国と比べ、コストも高い。政府は12年に再生エネを固定価格で買い取る制度を始め、普及を加速させた。だが、買い取り費用が電気料金に上乗せされ、家庭や企業の負担は10%以上増えた。
再生エネへの転換を進めれば、さらに料金が上がりかねない。
政府は有識者会議を設け、石炭火力の削減と再生エネ拡大のための具体策を検討する。電気料金を抑える方策や、石炭への依存度が高い電力会社の経営に配慮した制度設計が求められよう。
温暖化防止と安定供給を両立していくには、原子力発電所の活用が欠かせない。CO2を排出せず、出力が安定している。
しかし、東日本大震災後、廃炉が決まったものを除く33基のうち、再稼働したのは9基にとどまる。安全対策などに時間がかかり、地元の同意も進まないためだ。
石炭火力の削減を決断した以上、政府が責任を持って原発の再稼働を後押しする必要がある。