科学の基礎研究 未来に向けて息の長い支援を

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 今年のノーベル賞の自然科学部門では、日本人の3年連続受賞はかなわなかった。基礎研究は成果が出るのに時間がかかる。長い目で支援することが大切である。

 化学賞に決まったのは、ゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」を開発した米仏の女性研究者2人だ。生命の設計図であるDNAを自在に切り貼りできる画期的な技術で、本命視されていた。

 2人は2012年に、この技術を開発した。受賞まで数十年かかることもあるノーベル賞では、異例のスピード受賞となった。医療や生命科学に与えた衝撃を考えれば、当然の評価だと言えよう。

 源流は、30年以上前の日本人の研究にある。石野良純・九州大教授らが、大腸菌の遺伝子を解読する過程で、奇妙な繰り返し配列を発見した。後年、細菌の免疫機構に関係することがわかり、「クリスパー」と命名された。

 応用研究は、狙った成果を達成し、実用化につなげるのが目的だ。これに対し、最初は何の役に立つのかわからない基礎研究は、時に大きく花開くことがある。石野氏らの発見は、意外な可能性を秘めた基礎研究の好例だろう。

 国や企業、大学は目先の利益ばかり優先せず、長期的な視点で基礎研究を支えることが重要だ。

 今年の物理学賞のテーマは、ブラックホールだった。これとは別の研究だが、昨年、世界初の撮影に成功した国際プロジェクトでは、岩手県奥州市にある国立天文台観測所のチームが活躍した。

 ところが、その後、観測所の予算は大幅に削減され、観測業務も綱渡り状態だという。

 近年、日本のノーベル賞受賞者が、相次いで研究環境の悪化を指摘している。財政難で国から国立大学への運営費交付金が削られているためだ。不安定な身分の若手研究者も増えている。

 生理学・医学賞と合わせた自然科学3賞で、これまで日本人は米国籍の南部陽一郎氏らを含む24人が受賞している。2000年以降は19人と、受賞ラッシュだ。

 これらは過去に蓄積した業績が今になって顕彰されたにすぎない。現状では日本の論文の数や質は、米中に比べ地盤沈下が目立つ。このままでは、10年、20年先にノーベル賞受賞者が途絶えるのではないかと懸念する声は多い。

 ノーベル賞につながる独創的な研究には、若手や女性が伸び伸びと取り組める環境が必要だ。政府は将来に向けて、今から多くの種をまく戦略を練ってほしい。

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1542476 0 社説 2020/10/13 05:00:00 2020/10/13 05:00:00

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