ネット中傷摘発 悪質な匿名投稿者への警告だ
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インターネット上の悪質な書き込みは厳しく取締まるという、警察当局の強い姿勢の表れだろう。深刻化する
女子プロレスラーの木村花さんが今年5月、ネット上で誹謗中傷を受けて自殺した問題で、警視庁は、大阪府に住む20歳代の男を刑法の侮辱容疑で書類送検した。
男は木村さんが出演したフジテレビ制作の番組を見て、木村さんのツイッターに匿名で「生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの」などと書き込んでいた。
投稿を見た木村さんが精神的に追い詰められたことは想像に難くない。男は容疑を認め、「番組を見て嫌いになり、心を傷つけたいと思った」と供述したという。
誹謗中傷の投稿は約300件に上った。木村さんの死後、多くが投稿者によって消去されたが、警視庁が復元し、悪質な書き込みを繰り返した男を絞り込んだ。
匿名で投稿すれば、身元が分からないと思い込んでいる人もいる。今回の摘発で、それが事実ではないと示した意義は大きい。
木村さんが中傷の投稿を画像で保存していたことも、容疑者の特定に役立ったという。被害の証拠を残しておくことが大事だ。
中傷を苦に自殺するケースは国内外で相次いでいる。SNSの利用者は、心ない書き込みが時に人の命を奪い、自らも罪に問われることがあると自覚すべきだ。
木村さんの死を受け、総務省は被害者がSNS事業者などに求める情報開示の対象に、投稿者の電話番号を加えた。匿名の投稿者を特定し、損害賠償や謝罪を求めやすくする狙いがある。
投稿者の特定までに複数回必要だった裁判手続きを、原則1回で済むようにする制度も導入する方針だ。表現の自由とのバランスに配慮しながら、被害者の早期救済につなげてもらいたい。
SNS事業者は、悪質な投稿を削除するなど、自主的な取り組みを強めるべきだ。SNSには悪意のある投稿者をブロックする仕組みや、相手に知られずに投稿内容を表示しないようにできる機能もある。周知に努めてほしい。
遺族は、放送倫理・番組向上機構(BPO)に人権侵害を申し立てた。木村さんの出演番組は、男女の恋愛模様をリアルに描くのが特徴で、視聴者が感情移入しやすいと指摘されている。
誹謗中傷を招くような過剰な演出はなかったか。厳正な審理で明らかにする必要がある。