睡眠剤混入 あり得ない事態がなぜ起きた
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製薬会社が薬の成分を取り違え、服用した人が相次いで意識を失うという、信じがたい事態が起きた。なぜこんなことになったのか、徹底した原因究明が必要である。
福井県の「小林化工」が製造した爪水虫などの治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、服用した150人以上が意識消失などの健康被害を訴えている。死者も2人おり、会社が因果関係を調べている。
服用後に車を運転し、事故を起こした事例も20件を超えている。小林化工は薬を自主回収しているが、問題は極めて重大だ。病気を治す薬で命が脅かされることなど、あっていいはずがない。
製造過程で減った治療薬の有効成分を補充しようとして、従業員が睡眠導入剤の成分を混入させたという。二つの成分の容器は大きさや形状が異なり、取り違えは通常あり得ないとして、会社は「重大な過失だ」と説明している。
作業のずさんさも判明した。
社内規定では2人1組で製造にあたることになっているが、現場には1人しかいなかった。作業記録には、睡眠導入剤の成分投入を示す記載があり、サンプル検査でも異物混入が疑われたのに、そのまま出荷したという。
そもそも、薬の成分を途中で補充する行為は、厚生労働省が認めた手順に反している。一体どうなっているのか。組織として緩んでいるとしか言いようがない。
小林化工による薬の自主回収は、この4年間で5件目だ。昨年10月には、胃潰瘍などの治療薬に発がん性物質が含まれていたことが判明した。今回と同様、厚労省の定めた3段階の危険度で、最も重大なケースに該当している。
この時に、事実関係をしっかりと調査し、原因を究明して、再発防止に取り組んだのか。教訓を生かしたとは到底思えない。
すでに県は小林化工への立ち入り調査を行い、県警も関係者から事情を聞いている。現場で何があり、その責任は誰にあるのか。過去の事例も含めて、真相を明らかにしてもらいたい。
今回の薬は、新薬と同じ成分で作られ、安価で販売されるジェネリック医薬品(後発薬)だ。日本ジェネリック製薬協会は「極めて重大な問題」と捉え、加盟各社に法令順守の徹底を求めた。
医薬品の自主回収は近年、増加傾向にある。薬への信頼が損なわれることがないよう、新薬を扱う製薬会社も含めて、製造工程や検査体制を改めて点検し、安全の確保に努めることが大切だ。