ミサイル防衛 脅威対処へ能力向上を急げ
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ミサイル防衛政策の変更で、抑止力の低下を招いてはならない。安全保障環境の変化を踏まえ、着実に対処能力を向上させることが肝要だ。
政府が、地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の代わりに、同じ装備を搭載した護衛艦2隻を建造する方針を決めた。5年後の導入を目指している。現行のイージス艦8隻と合わせて、ミサイル防衛の要とする構えだ。
防衛省は当初、北朝鮮の弾道ミサイルを念頭に、イージスアショアを秋田、山口両県に2023年度に配備する予定だった。
最新鋭の装備で、幅広い地域をカバーできるという利点を重視していた。陸上自衛隊に運用を任せ、人手不足が顕著な海自の負担を軽減する狙いもあった。
だが、ミサイル推進装置が市街地に落下する恐れがあるとして、今年6月、唐突に計画を断念した。技術的な検証が不十分だったと言わざるを得ない。
政府は代替案として、民間商船や洋上の施設でシステムを活用することも検討したが、艦艇ならば、南西諸島海域などでも弾力的に運用できると判断した。装備を巡って方針が定まらず、混乱が続くようなことでは困る。
護衛艦の導入に向けて課題となるのは、乗組員の確保である。
防衛省は、自衛隊員の定年年齢を段階的に引き上げ、乗り切ろうとしている。処遇の改善によって採用を増やす必要もあるだろう。女性自衛官やOBの活用にも取り組んでもらいたい。
日本を取り巻く安保環境は、厳しさを増している。北朝鮮は、変則的な軌道で飛行して迎撃が難しいミサイルの実験を、繰り返し行ってきた。中国も様々な高性能ミサイルを開発している。
安倍前首相は退陣前の9月、抑止力を高めるため、「ミサイル阻止」の新たな方針について、年内にとりまとめるとする談話を発表した。他国の領域内にある拠点を攻撃する敵基地攻撃能力を念頭に置いたものである。
だが、菅内閣は「抑止力の強化について、引き続き政府において検討を行う」という方針を決めただけで、判断を先送りした。
自民党内には、攻撃手段の確保に慎重な公明党に首相が配慮した、とみる向きが多い。
首相は、多様な脅威を深刻に受け止める必要がある。公明党に反対論があるのならば、防衛力強化の重要性を粘り強く説明し、理解を得るべきだ。それが国政を担う指導者としての責務であろう。