英EU貿易協定 瀬戸際の合意に火種が残る
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英国と欧州連合(EU)の貿易で関税が復活し、経済が混乱に陥る最悪の事態は、ぎりぎりのところで回避された。
両者は今後も、建設的な関係を構築する努力を継続しなければならない。
英国とEUが、新たな自由貿易協定(FTA)を柱とする将来の関係について合意した。
英国は今年1月にEUを離脱し、加盟国と同様の扱いを受ける移行期間は年末で終わる。FTAで合意できずに関税が復活すれば、双方の製造業や物流に大きな影響が出ることは必至だった。
当初は10月半ばだった交渉期限は、大幅にずれこんでいた。土壇場で合意した背景には、双方ともコロナ禍で経済が落ち込む中、さらなる打撃を避けたいという判断もあったのだろう。
英国とEUが自由貿易を維持し、長期的協力の枠組みを作った意義は大きい。一方で、両者の溝も改めて浮き彫りになった。
交渉が難航したのは、ジョンソン英首相が「国家主権の完全な回復」を掲げ、強硬姿勢をとったからだ。自国企業への補助金や環境規制、労働基準などで、独自の政策をとる権利を主張した。
これに対し、EUは「公正な競争条件」の確保を強調し、英国がEU単一市場との関税なしの貿易を続ける条件として、EUのルールに従うことを求めた。
EUの結束を維持するためにも、英国側の「いいとこどり」は許さないという原則は曲げられなかったといえる。
英国は最終的に譲歩し、現行のEUルールを実質的に受け入れた。公正な競争が
もう一つの争点となった英海域での漁業権についても、英国はEU側漁業者への割り当ての急減を主張したが、結局「5年半で25%の削減」にとどまった。
英経済を支える金融サービスでの詳細なルール作りは先送りになった。EU側には、EUとの取り決めを軽視するジョンソン氏への不信感が根強い。あつれきの火種は残っているのではないか。
英国にとって、EUとの貿易は全体の半分を占める。ジョンソン氏は、米国や豪州ともFTAを結び、繁栄を導くとしているが、まず足元を固める必要があろう。
英国に拠点を置く日本企業にも、優遇関税を受けるための原産地証明が新たに必要になるなど、影響が及ぶ。政府は情報収集に努めなくてはならない。