元農相収賄事件 規範意識の欠如が目に余る
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またしても前政権下の「政治とカネ」を巡る疑惑が事件に発展した。
東京地検特捜部が、自民党衆院議員だった吉川貴盛・元農相の事務所を収賄容疑で捜索した。
安倍政権で農相を務めた2018年秋~19年夏、大手鶏卵会社「アキタフーズ」の前代表から3回に分けて現金計500万円を受け取った疑いが持たれている。吉川氏と前代表は事情聴取に、いずれも現金授受を認めている。
現金の一部は、大臣室で受け取ったとされる。規範意識の欠如に驚くほかない。
吉川氏は調べに対し、「現金を置いていかれた。返すつもりだった」と語ったという。仮にそうであっても、現金を長期間、保有し続けたことは理解に苦しむ。
閣僚の職務権限は広範に及ぶ。業者から渡された現金に、見返りを求める意図があると考えるのが当然だろう。まして相手は、自身がトップを務める農林水産省の所管する業界の代表格である。
当時は、家畜をストレスの少ない環境で飼育する「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の観点から、国際機関が指針案を策定していた。日本ではケージでの飼育が主流で、前代表は業界幹部として指針案に反対していたという。
現金授受が行われた期間に、農水省は国際機関に指針案の修正を求めている。吉川氏が、前代表の意向を反映させるよう仕向けた可能性はないのか。現金の使途も含め、捜査を尽くしてほしい。
吉川氏は、自民党選挙対策委員長代行を務めていた。健康状態を理由に議員を辞職したが、菅政権への打撃は大きい。
元農相で内閣官房参与の西川公也氏も、同じ業者から現金数百万円を受け取った疑惑が出ている。西川氏は元農水官僚とともに業者から接待も受けていたという。
農水行政への信頼は大きく損なわれた。吉川氏と西川氏は、説明責任を果たさねばならない。
安倍政権下で起きた自民党議員の事件が相次いでいる。今年初め、統合型リゾート事業を巡って、秋元司・衆院議員が収賄罪で起訴された。今夏には、河井克行・元法相と妻の案里参院議員が公職選挙法違反で起訴されている。
安倍前首相の秘書も「桜を見る会」の前夜祭を巡り、政治資金規正法違反で略式命令を受けた。
「一強多弱」と言われた長期政権下で緊張感が失われ、