大震災10年 自立への歩み着実に進めたい
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◆減災対策に重い教訓を生かせ◆
巨大な地震と津波、原子力発電所の事故が重なった未曽有の複合災害から今年で10年になる。
政府が定めた東日本大震災の復興期間は3月で終わり、新たに5年間の第2期復興・創生期間が始まる。多くの被災地が自立へ向けて本格的に歩み出す一方、原発事故に見舞われた福島県の再生は、なお遠い。
死者・行方不明者は2万2000人を超えている。改めて犠牲者に哀悼の意を表し、被災地を支える決意を新たにしたい。
◆街づくりは地域主導で
岩手、宮城、福島の被災3県を中心に計画されていた約3万戸の災害公営住宅は昨年末までに完成した。2万戸近い宅地の造成も終了し、岩手、宮城両県の仮設住宅は解消される見込みだ。
鉄道や道路も整備され、31兆円を投じた生活基盤整備がほぼ完了する。今後は、この基盤をどう活用していくかが課題となる。
ほとんどの被災自治体では、人口が震災前より大幅に減り、今も流出が続いている。造成地のうち利用されていない土地が、岩手県と福島県で4割超、宮城県でも2割を超えている。
宮城県女川町は商業施設が整備されたが、人口は震災前の6割に減り、高齢者が4割を占めている。新たに造成された高台に住む高齢者が、低地の商業地へ買い物に行きにくい状況も生まれている。
当初の想定と現実との間にズレが生じていないか。自治体と住民が主体的に話し合い、改善点を洗い出してほしい。将来も持続可能な街を築くことが重要だ。
国は、移転先で孤立している被災者のケアやコミュニティー作りなど、被災地の自立に必要な支援に力を注がねばならない。
◆雇用の確保が不可欠だ
ピーク時に47万人に達した避難者は4万2000人に減った。このうち3万7000人は福島県の出身者だ。県内7市町村には、放射線量が高く、避難指示が解除されていない区域が残っている。
解除に時間を要する中で、避難先で生活基盤を築き、帰還を断念する人が今後も増えるだろう。人口減と高齢化が進む現実も踏まえて、将来像を描く必要がある。
地域の維持と発展は、働く場の確保が前提となる。福島県沿岸部に、ロボットの実証施設や水素製造工場などが建設された。整備して終わりではなく、地域の活性化につながるよう、国は地元企業との連携強化を主導してほしい。
風評被害は根強い。福島県の特産品である桃や牛肉の価格は、全国平均より2割ほど安い。韓国や中国など5か国・地域は、被災3県などを産地とする農水産物の輸入停止措置を続けている。
国は、放射性物質を含む原発の処理水を海に放出する方針だという。食品の安全性を国内外へ丁寧に説明し、風評被害の拡大を食い止めねばならない。
震災の風化も防ぎたい。福島県双葉町に昨秋、原発事故の資料を集めた伝承館が造られた。多くの子供が犠牲になった宮城県石巻市の大川小学校は遺構として整備され、4月に公開されるという。
記憶を後世に伝え、教訓を語り継ぐことが大事だ。
この10年の間にも、大規模な自然災害が相次いだ。16年に熊本地震、18年には北海道地震が起きた。気候変動に伴い、台風や豪雨災害は激甚化している。
◆自治体の対策強化を
今後30年間に南海トラフ地震は70~80%、首都直下地震は70%の確率で起きると予測されている。政府は国土
建設から50年以上たち、補修が必要な橋やトンネルは8万か所に上る。着実に進めてほしい。
ハード面だけでなく、ソフト面の対策も組み合わせた減災が一層重要になる。ただ、自治体の対応には温度差が目立っている。
豪雨で氾濫する恐れのある中小河川が約8000ある。浸水想定区域を指定してハザードマップを作り、危険を周知する必要があるが、半数超が未指定のままだ。
災害で発生するゴミの処理計画を策定した市町村も半数にとどまる。膨大なゴミ処理が滞り、復興の妨げになりかねない。
国や都道府県が専門人材を派遣するなどして、中小自治体の計画作りを後押しすべきだ。計画の策定段階から、複数の自治体が広域的に連携を図る必要もあろう。
東日本大震災では、死者・行方不明者の6割超を高齢者が占め、障害者の死亡率も高かった。防災の計画を作る際には、災害弱者を守る視点を大切にしたい。