香港の一斉逮捕 なりふり構わぬ民主派潰しだ
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香港の民主派を締めつけるだけでなく、社会から抹殺する動きだと言わざるを得ない。言論の自由などの普遍的価値観や国際約束に背く弾圧は、断じて容認できない。
香港警察が、民主派の立法会(議会)前議員ら53人を、国家安全維持法(国安法)違反の疑いで一斉逮捕した。昨年9月に予定されていた議会選を前に、民主派が行った予備選が、国安法の国家政権転覆罪にあたるのだという。
議会選で過半数を獲得して予算案を否決し、政府トップの行政長官を辞任に追い込むという民主派の目標が、「政府の機能停止を狙った」とみなされた。議会活動を否定するに等しい行為である。
逮捕された民主派の多くは保釈されたが、今後裁判にかけられ、政治活動を制限される可能性が高い。政府側の狙いは、今年9月に延期されている議会選で、民主派が議席を得る余地を完全に潰しておくことにあるのだろう。
国安法は昨年6月の施行時から、「国家転覆」や「外国勢力との結託」といった規定の曖昧さから、
昨年の国安法違反での逮捕者計約40人を、わずか1日で上回る事態となった。国際社会が懸念した通りのエスカレートぶりだ。香港政府が当初強調した「抑制的運用」とも著しくかけ離れている。
香港で活動する外資系企業の数は昨年、11年ぶりに減少に転じた。香港の「中国化」の波が外国資本の逃避を招いていると言える。英国移住の希望者も増えており、今後5年間で最大32万人が渡英する可能性があるという。
英国と中国が合意した「一国二制度」を土台に、国際金融センターとして発展してきた香港の地位は、存亡の危機に直面しているのではないか。
中国は「愛国者による香港統治」を掲げ、国際社会の非難を「内政干渉」とはねつけている。50年間の香港の現状維持を認めた国際合意を自ら破っている行為であることを自覚すべきだ。
今回の逮捕者には、民主派を支援する米国人弁護士も含まれている。外国人も容易に国安法の標的になることが示された。
米国は「普遍的な権利を主張する人々への攻撃だ」として、中国への批判を強めている。
日本も「対岸の火事」では済まされまい。価値観を共有する国々と共に、中国に対する深刻な懸念を明確に発信し、一方的な行動にクギを刺し続けねばならない。