施政方針演説 医療体制の現実に目を向けよ
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感染症の不安を解消するために今、何をなすべきか、という強い問題意識が感じられなかったのは残念である。
菅首相が通常国会で施政方針演説を行った。新型コロナウイルス対策について「国民の協力をいただきながら、私自身も闘いの最前線に立つ」と述べた。
感染者数の急増を受け、首相は7日に東京都など4都県に、13日に大阪府など7府県に緊急事態宣言を発令した。措置の期限である来月7日までに、感染拡大を抑え込めるかどうかが焦点だ。
対象となった自治体は、飲食店に午後8時までの営業時間短縮を要請している。政府はテレワークの推進や、昼間を含めた不要不急の外出の自粛を求めている。
だが、各地の人出は大きくは減っていない。多くの国民には自粛要請が中途半端に映っている。首相自身の記者会見での発言などが、夜の外食を除けば、普段のように生活して構わないという印象を与えているのではないか。
首相は演説で、感染者数を減らして宣言を早急に解除する考えを示したが、そのための具体策としては、外出自粛の要請など従来の施策を表明しただけだった。これでは危機感は伝わるまい。
政府は、宣言の効果が上がらない場合など様々な事態を想定し、対処策を準備せねばならない。
医療提供体制は厳しさを増している。感染しても入院先が見つからず、自宅待機を余儀なくされている人が増えているという。
行政が主導して、コロナの患者を受け入れる病院を増やすとともに、そうした医療機関に医師や看護師を派遣するなど、病院間の連携を図る必要がある。コロナの治療を専門とする仮設施設を整備することも、検討に値しよう。
首相は、東京五輪・パラリンピックについて、「世界中に希望と勇気を届ける大会を実現する」と語った。国内で感染を食い止められなければ、開催が危ぶまれるということを肝に銘じるべきだ。
経済政策に関しては、温室効果ガスの排出を抑制する脱炭素化と、行政のデジタル化を「次の成長の原動力」と位置づけた。
再生可能エネルギーの導入を拡大し、新産業で雇用を創出する意義は大きい。国や自治体のシステムを連携させ、行政サービスの迅速化を図ることは重要だ。
中長期の目標に向けて取り組む姿勢は評価できるが、実現までの道筋は見えない。首相は国会論戦を通じて、具体的な方法や手順を明らかにしてもらいたい。