高齢者介護 施設職員の虐待増加を止めよ
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介護を必要とする高齢者への虐待が後を絶たない。施設での被害の増加に歯止めをかけることが急務である。
厚生労働省は、介護施設職員による高齢者への虐待が2019年度に644件に上ったと発表した。通報を受けて自治体が認定したもので、13年連続で過去最多を更新した。
虐待で4人が死亡したという。見過ごせない事態だ。
殴るなどの身体的虐待が全体の6割を占めている。
専門的なケアを提供すべき施設で虐待が頻発していることに、不安を募らせる利用者や家族は多かろう。高齢者の尊厳を傷つけ、安全を脅かす行為であり、施設管理者の責任は重い。
介護保険制度への信頼まで揺るがしかねない。国や自治体は深刻に受け止めるべきだ。
虐待の要因について、厚労省の調査では、職員の「教育・知識・介護技術等の問題」が6割近くを占めている。
施設の利用者は、認知症などでコミュニケーションを取るのが難しい人もいる。職員には経験や知識の積み重ねが必要だが、研修の機会は十分ではないという。
厚労省は、介護保険法にもとづく運営基準を見直し、職員への研修を事業者に義務付けることを検討している。都道府県と連携し、実効性の高い研修ができる態勢を整えてもらいたい。
職員に研修を受けさせる余裕がないほど、人手不足が深刻な職場もある。職員の処遇を改善し、IT活用などによる業務効率化を図らなければならない。
事業者は、定期的にアンケートをとるなどして、高齢者と職員のトラブルを把握するとともに、職員が悩みを相談しやすい環境を整えることが重要だ。新型コロナウイルスの感染対策に追われる職員の心のケアにもつながろう。
一方、厚労省の発表では、家族らによる虐待は1万6928件で、過去3番目に多かった。
昨年来、コロナ禍で介護サービスの利用を控える動きがある。介護をする家族の負担が増えて、虐待につながらないか心配だ。
1人で介護を担い、周囲に相談相手がいないという人も多い。自治体は、社会福祉協議会や民生委員などと緊密に連携し、高齢者や介護者への目配りが十分か、点検してほしい。介護世帯の孤立を防ぐ取り組みが大切である。