個人投資家の乱 米国社会の格差を映す異変だ
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SNSでつながった米国の個人投資家集団による取引が、株式市場を揺さぶっている。時代に即した規制のあり方について、検討が必要だ。
米株式市場で1月下旬に、米ゲーム販売チェーンの「ゲームストップ」株が急騰した。コロナ禍で業績が赤字になったにもかかわらず、株価が一時、昨年末比で20倍以上に上昇した。
株価を押し上げたのは、SNS「レディット」の掲示板で集った個人投資家のグループだ。
巨額の資金を動かしているヘッジファンドが、ゲームストップ株を、値下がりすれば利益が出る「空売り」の対象としていた。これに対抗して、個人投資家が掲示板で「買い」を呼びかけた。
空売りは、値下がりを見込んで証券会社から株を借りて売却し、一定期間後に買い戻して利益を得る取引のことだ。売却時より株価が上がれば、逆に損をする。通常の取引として認められている。
ヘッジファンドは巨額の損失を出し、米国では「プロ投資家に対する個人の反乱だ」と共感の声も出ている。格差拡大や社会の分断を反映しているのだろう。
米株式市場の歴史的な株高で富裕層の資産が膨らむ一方、サービス業で働く低所得者らの雇用は悪化し、不満が高まっている。
さらに、手数料無料の株取引アプリが広がって投資が手軽になったことや、SNSの普及で交流が容易になったことが、今回の集団的な行動を呼んだと言える。
だが、株価は本来、企業の業績や将来性で決まるものだ。ゲーム感覚の取引は市場をゆがめ、危険も伴うことには留意すべきである。ゲームストップ株はその後、大きく値下がりしている。
意図的に株価をつり上げる行為は、「株価操縦」として法律で禁じられている。米証券取引委員会は、個人投資家の行動について調査に乗り出すという。米議会も公聴会を開き、株取引アプリの経営者らを招致する意向だ。
株価がバブルとも言われる高値圏にある今、今回のような取引が広がれば、株価の乱高下を招き、市場を不安定にしかねない。
こうした事態は避けねばならないが、掲示板の書き込みを株価操縦と認定するのは難しいとの見方がある。現行法は、株売買でのSNSの利用を想定していない。ルールの整備が必要ではないか。
ヘッジファンドの空売りにも厳しい目が向けられている。透明性の向上など、市場の健全性を高める方法を論議してもらいたい。