WTO新トップ 機能不全状態を打開できるか
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機能不全に陥った世界貿易機関(WTO)の立て直しができるか。多くの難題を克服し、自由貿易体制の強化に全力を挙げてもらいたい。
WTOは、ナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相を事務局長に選出した。1995年の設立以来、女性として、またアフリカ出身で初のトップとなる。3月に就任するという。
前任者が任期途中で退任し、後任選びは難航した。米トランプ前政権が韓国出身の候補を推し、WTOの原則である加盟国の全会一致に至らなかったためだ。
中国の影響力が強いとされるアフリカの出身者を、米国が警戒したとみられている。
バイデン政権になって方針を変更し、約半年にわたる異例の空席状態が解消されることになった。新トップの決定を歓迎したい。
オコンジョイウェアラ氏は、世界銀行の専務理事など要職を歴任し、豊富な人脈や高い知名度を誇る。手腕への期待は大きい。
だが、WTOの機能不全は深刻である。まずは、貿易紛争処理の「最終審」にあたる上級委員会の再建を急ぐことが不可欠だ。
上級委の審理の遅さや判断に不満を募らせた米国が委員の選任に反対し続け、欠員が増えて1年以上、審理ができていない。約160の加盟国・地域の貿易紛争を解決する機関は他になく、WTOの機能不全の原因となっている。
早期に委員が就任できるよう、米国を説得することが重要だ。
米国は、中国が加盟時の申告のまま、なお「途上国」として扱われ、ルールの優遇を受けていることも批判している。中国の不当な産業補助金や知的財産権の侵害に、WTOが十分に対処できていないと主張している。
こうした点は、かねて改善が求められているもので、中国に強く改革を迫る必要がある。先進国と途上国の対立も根深く、これを解きほぐす努力が大切だ。
新型コロナウイルスを巡る問題にも取り組まねばならない。マスクなど医療物資や医療機材の需要が増え、約100か国・地域が輸出制限を導入している。ルールを守るよう監視を強めるべきだ。
電子商取引やデータ流通が拡大する中、WTOには明確な決まりがない。デジタル時代の貿易に関するルール作りが急務となる。
自由貿易を推進する日本が、各国の調整役として果たすべき役割は大きい。世界で活躍できる人材を育て、WTOのトップ候補にも擁立できるよう努めてほしい。