WHO報告書 中国の介入許し信頼を損ねた
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報告書の共同執筆という形で中国の介入を許したことで、調査や分析の信頼性が損なわれたのは明らかである。世界保健機関(WHO)の存在意義が改めて問われよう。
新型コロナウイルスの発生源を巡り、WHOが中国・武漢で行った調査に関する報告書を公表した。「動物を介して感染が拡大した可能性が高い」という従来の評価を示しただけで、具体的な感染経路の解明には至らなかった。
ウイルスが輸入冷凍食品に付着して持ち込まれたという中国の主張については、「可能性はある」と認める一方、トランプ前米政権が唱えた「武漢ウイルス研究所からの流出」説は、極めて可能性が低いとの見解を示した。
調査や報告書の作成は、当初から中国政府の強い影響を受けており、中国の主張に沿う結論が導き出されるのは予想されていた。
報告書は、WHOと中国の各17人の専門家が共同執筆したという。なぜ、WHOの独立した調査にできなかったのか。現地調査や報告書の公表は予定より大幅にずれ込んだ。中国に注文を付けられ、調整が難航したためだろう。
WHOのテドロス事務局長は、報告書が不十分であることを認めた。「中国寄り」と批判されていたWHOへの信頼を回復する機会を逸したと言える。WHO自らによる再調査が不可欠だ。
新型コロナの感染者は、2019年12月に武漢で、世界で初めて確認された。報告書は、ウイルスがその数週間前から広がっていた可能性を指摘し、追加の血液サンプル調査を中国に求めた。
中国が応じれば、発生源の特定につながるとの見方もあるが、実現は容易ではない。
調査に参加した専門家は、中国は「感染拡大初期の患者の生データ提供を拒否した」と証言している。日米など14か国は、調査団が「完全な元データや検体を手に入れられなかった」と批判した。
中国は、国際社会の厳しい視線を重く受け止めねばならない。自国が発生源ではないと主張するのなら、調査に協力し、データを差し出すべきではないか。
こうした事態の再発を防ぎ、新たな感染症の流行に効果的に対処するには、WHOの透明性と信頼性を高める改革が必要だ。
欧州連合(EU)は、感染症に関する情報共有やワクチンの確保で、国際連携を強化するための新たな条約の必要性を訴えている。WHOの権限の弱さを補完する枠組み作りを急がねばならない。