道路陥没事故 地下開発の安全を揺るがした
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地下開発の安全性に対する信頼を揺るがす事故である。国と事業者で対策を徹底し、不信を
東京都調布市の住宅地で昨秋以降、道路の陥没や地中の空洞が相次いで見つかった。現場の地下約47メートル付近で、東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事が進められていた。
事業主体の東日本高速道路が設置した有識者委員会は、工事が陥没の原因だと認定した。既に工事を中断しており、周辺の約1000戸を対象に、家屋の被害などに応じて補償を行うという。
まずは被害の回復を急ぎ、住民が安心して暮らせる環境を早期に取り戻してほしい。情報開示を進め、原因や対策について住民に説明を尽くしてもらいたい。
有識者委の調査によれば、土を軟らかくする薬剤を投入したところ、掘削機が土を削り取り過ぎるミスが起きた。小さな石や砂でできた「特殊な地盤」だったため、陥没や空洞が生じたという。
再発防止策として、工事中でも必要に応じて地盤のボーリング調査を行うことや、地上の監視を強化することなどを挙げた。
これに対し、一部の専門家からは「日本の地盤は複雑で、今回だけが特殊なわけではない」との声も出ている。だとすれば、こうした対策は、事故の前から行うべきではなかったのか。
住民は陥没の1か月前から振動などの異変を訴えていた。その時点で適切に対処せず、事故を防げなかった事業者の責任は重い。
外環道工事は、地上から40メートル以上深い「大深度地下」と呼ばれる場所で行われていた。2001年に施行された大深度地下利用法が適用された2例目の事業だ。
3大都市圏で行われる公共工事では、国や都道府県の認可を受ければ、住民の同意や用地買収が不要になる仕組みで、工期や費用を縮減できる利点がある。
大深度地下は、これまでほとんど需要がなかったうえ、工事による地表への影響も考えにくいとされてきた。その前提が崩れた以上、国と事業者は、安全対策を根本から見直すことが必要だ。
掘削機を使った地下工事では、死亡事故も起きている。国は今回の事故を検証し、対策を強化すべきだ。住民への説明を手厚くする法改正も検討に値しよう。
大深度での工事は、リニア中央新幹線品川―名古屋間の計50キロ区間でも予定されている。地下の開発は、地表の安全確保が大前提であることを忘れてはならない。