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南シナ海の権益拡大を図る中国の動きが加速している。漁業活動を隠れみのに、一方的な現状変更を進める行為は国際法に反しており、許すことはできない。
中国とフィリピンなどが領有権を争っている南シナ海のスプラトリー諸島周辺に多数の中国漁船が集結し、1か月にわたり停泊している。フィリピン軍は現場海域で建造物も発見したという。
漁船には中国の退役軍人や漁民らで構成する「海上民兵」が乗り込み、武装している可能性が高い。現場海域の領有権を既成事実化しようとする狙いは明白である。
中国は南シナ海に法的根拠のない境界線を設定し、主権を主張しているが、2016年の仲裁裁判所の判決で全面否定されている。法の支配を尊重すべきだ。
漁船の停泊は「風を避けるためだ」というのが中国側の説明だ。だが、悪天候が1か月も続くとは考えにくい。漁船が実際に操業しているかどうかも疑わしい。
フィリピン政府は、自国の排他的経済水域(EEZ)内だとして、建造物の設置は国連海洋法条約違反だと指摘している。漁船の即時退去も求めている。
一方で、ドゥテルテ大統領は、新型コロナウイルスのワクチン確保や経済協力のため、中国に配慮した言動が多い。足元を見られているのは否定できまい。
漁船と海上民兵を使って強引に海洋進出するのは、中国の
過去にも、中国の漁船が南シナ海のスカボロー礁に居座って支配を強化した際や、沖縄県の尖閣諸島沖に集結した事案で、海上民兵の関与が指摘されている。
兵士なのか、漁民なのか、実態が不明な要員を係争海域に送り込み、相手国が取り締まりに苦慮している隙に中国のプレゼンスを常態化させ、主権を侵害する手法は極めて問題である。
中国は2月施行の「海警法」で中国の主権が侵害されたとみなした場合、海上保安機関の海警局が武器を使用できると規定した。相手国が漁船を排除すれば、主権侵害を口実に海警局が介入し、武力行使するという脅しだろう。
保安機関というより、事実上の「第二の海軍」ではないか。
尖閣諸島周辺でも、同様の手法を使ってくる恐れがある。日本はあらゆる事態への対処能力を高めながら、中国に挑発行為の自制を促し続けねばならない。