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海外に逃亡した容疑者の情報を共有する枠組みが、強権国家の反体制派抑圧に悪用されてはならない。各国の捜査協力を担う国際機関として中立性が問われるだろう。
国際刑事警察機構(ICPO)の新総裁に、アラブ首長国連邦(UAE)の内務省幹部が選出された。ICPOの事務方を監督する13人の執行委員会には、中国の公安省幹部も入った。
UAEや中国は、国際社会から人権弾圧を強く非難されている。そうした国で治安を担当してきた高官がICPOの活動を主導することに対し、欧米の政治家や人権団体から批判の声が出ているのは当然と言える。
ICPOには190以上の国と地域が加盟している。加盟国からの要請を受けて、国外逃亡した容疑者の所在特定や身柄拘束を求める国際手配を行うほか、容疑者の指紋やDNAなどの情報をデータベース化して提供している。
ただ、実際に捜査を行う権限はない。各国から出される国際手配の要請について、正当な根拠があるか、政治目的でないか、点検するのが役割だ。
しかし、中国が香港の民主活動家や反体制派のウイグル族、台湾独立を訴える運動家らを海外で摘発するために国際手配を使うことへの懸念は尽きない。
実際、中国からドイツに亡命した亡命ウイグル人組織の指導者は長年、ICPOの国際手配を受けていた。国際人権団体などの抗議によって、ICPOは2018年に手配を解除している。
中国の習近平政権が国際社会の批判に耳を貸さず、香港や新疆ウイグル自治区などで弾圧を続けていることを考えれば、ICPOの責務はきわめて重い。
ICPO憲章は、執行委員が任務遂行にあたり、「それぞれの国を代表する者として行動してはならない」と明記している。中国の執行委員がこれを逸脱しないよう厳しく監視する必要がある。
ICPOに加盟していない台湾は、11月のICPO総会にオブザーバーでの参加を求めたが、中国の反対で実現しなかった。
犯罪防止や感染症対策は世界規模での協力が必要だ。特定の地域を政治的に排除することは筋違いであり、対策の効果を弱める。
サイバー攻撃やテロなど、国境を超える犯罪は増加と悪質化の一途をたどっている。ICPOの役割は一段と重要になっている。中立性を保ち、各国の信頼を維持することが不可欠だ。