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いかなる強権的な指導者も権力を永遠に持ち続けるのは難しい。専制政治のモデルとされたリーダーの失脚は、長期独裁をもくろむ世界の首脳への警告になったのではないか。
中央アジアのカザフスタンで、ソ連末期から30年以上君臨してきたナザルバエフ前大統領が、政界からの完全引退を表明した。
きっかけとなったのは、今月初めに起きた反政府デモだ。燃料価格の高騰に抗議するデモの矛先がナザルバエフ氏に向かった。
ナザルバエフ氏は石油・天然ガスやウランなどの豊富な資源をテコに投資を呼び込み、カザフの発展を
2019年に大統領を辞任し、側近のトカエフ氏を後継に据えた後も、安全保障会議議長などの要職にとどまり、事実上の最高指導者として権力と富を独占してきた。一族は英国に500億円超の不動産を所有しているという。
デモ参加者は、貧富の格差や汚職に抗議の声を上げ、ナザルバエフ氏の銅像を引き倒した。長期支配が生み出した
トカエフ氏はデモを権力奪取の好機とみたのだろう。ナザルバエフ氏の公職を解き、治安部門を率いていた側近を拘束した。ナザルバエフ氏には、表舞台から退場する選択肢しかなくなった。
盤石に見えた強権体制があっけなく崩壊した。長期政権を目指すロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席にとっても人ごとではあるまい。
騒乱はいったん沈静化したように見えるが、国民や国家が失ったものは大きい。
デモ隊と治安部隊との衝突では4500人以上の死傷者が出た。トカエフ氏がデモ参加者を国家転覆を狙うテロリストと決めつけ、治安部隊に発砲を許可したからだ。平和的な訴えに対する残虐な行為は到底許されない。
トカエフ氏は事態を収拾するため、ロシアが主導する旧ソ連圏の軍事同盟に部隊派遣を求めた。ロシアはデモへの「外国勢力の関与」を口実に部隊を展開した。
カザフの騒乱は、国内の経済政策を巡る問題であり、本来は国際部隊派遣の対象にはならないはずだ。トカエフ氏が権力基盤の強化のためにプーチン氏に支援を求め、ロシアの影響力拡大を許したというのが実態だろう。
トカエフ氏は権力固めに成功したが、ナザルバエフ氏と同じ道をたどることにならないか。