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台風や豪雨が年々激しくなる中で、土石流を引き起こす危険な盛り土は全国に点在している。国と自治体は早急に対策を講じねばならない。
静岡県熱海市で昨年7月に起きた土石流災害を巡り、県と市の対応を検証する第三者委員会が最終報告書を公表した。不適切な盛り土の造成を止める機会は何度もあったと指摘し、行政の対応は「失敗」だったと結論づけた。
崩落の起点となった土地の盛り土の高さは、法令基準の3倍超の約50メートルに及んでいたとされる。市は2011年、県と協議し、造成時の土地所有者に安全対策を求める措置命令を出すと決めたが、最終的に発出を見送っていた。
そのため、報告書は県と市の連携不足にも言及した。熱海市の災害では27人が死亡し、1人が行方不明になっている。県と市が盛り土崩落の危険性を認識し、適切に対処していれば、これほど大きな被害は防げたのではないか。
熱海市議会の調査特別委員会(百条委員会)では、盛り土が造成されたとされる時期の土地所有者と現在の所有者が証人として呼ばれた。しかし、2人とも自身の責任を否定し、押しつけ合うような発言に終始したという。
静岡県警は、当時と現在の土地所有者を業務上過失致死容疑などで捜査している。甚大な被害の責任を徹底的に追及してほしい。
熱海市の土石流災害を受け、盛り土の安全対策を強化する「宅地造成等規制法」改正案が今国会で成立する見通しになった。
改正法では、土砂災害で人家などに被害が出かねない地域を都道府県知事らが規制区域に指定し、土地所有者らは許可を得なければ区域内で盛り土ができなくなる。違反者への罰則も重くなり、法人には最高3億円の罰金を科す。
盛り土はこれまで、場所や規模で適用される法令が異なり、包括的なルールがなかった。規制の緩い区域に建設残土が投棄されるという実態もあった。法改正によって、無秩序な盛り土に歯止めをかける効果を期待したい。
国は今後、実務を担う自治体向けに、規制の運用ガイドラインを策定するという。各自治体は、盛り土の規制区域を指定するにあたり、土砂災害が起きるリスクを厳しくチェックすべきだ。
無許可など不備のある盛り土は全国約1100か所に上っている。土砂の不法投棄で、知らないうちに盛り土が形成される例もある。各自治体はパトロールの強化にも努めてもらいたい。