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感染症の制圧には素早い情報収集と分析が重要だ。新型コロナウイルスの流行から2年たっても患者のデータ集めに苦労している現状は危機的だと言わざるを得ない。
政府のコロナ対応を検証した有識者会議は、今月まとめた提言の中で、情報収集の遅れとデータ活用の不十分さを指摘した。
提言は特に、国がコロナ流行初期の2020年5月に導入した情報システム「HER―SYS(ハーシス)」が、十分活用されていないことを問題視している。
いつどこで、どのような症状の患者が出たかという情報がすぐにわからなければ、クラスター(感染集団)の封じ込めや、ウイルスの特性を踏まえた感染予防ができない。データ収集の体制を抜本的に見直すことが急務だ。
ハーシスの活用が進まない原因は、使い勝手の悪さにある。
国は、診察した医師らにパソコンで情報を直接入力するよう求めている。だが、導入当初は項目が約120もあり、作業が膨大で診療に支障が出る事態となった。
現在は約20項目に減らしたが、感染の原因や経路など、特定が難しい項目が残っている。パソコンに不慣れな医師も多く、わかっている情報だけを紙に書いてファクスで保健所に送る状況が今も解消されていない。
その結果、保健所がハーシスへの代行入力に追われ、業務が滞るという悪循環に陥っている。
巨費を投じてシステムを構築しても、利用されなければ意味がない。なぜ開発や改修時に、医師らの意見に耳を傾け、現場が使いやすい仕組みにしなかったのか。
国はコロナ禍で、国民のワクチン接種記録を集約するシステムも導入した。投薬情報などを集めた既存のデータベースもある。しかし、ハーシスはこれらと連動しておらず、ワクチンや投薬の効果が十分検証できずにいる。
これでは有効な感染症対策など期待できない。政府内に、システム開発の全体像を見渡せる人材がいなかったことが原因だろう。
国は現在、ハーシスに代わる新システムの開発を進めている。コロナのほか、感染症法で届け出が必要な他の感染症の情報も対象とし、スマートフォンでも入力できるようにする方針だという。
他のシステムとも連携を図り、幅広くデータを活用できるような仕組みにすべきだ。コロナ危機で浮かび上がったデータ収集の弱点を克服し、次の感染症の到来に備えることが大切である。