(2)人口減対策 カネより知恵
300人前後の住民が毎年、県境の川を越え、対岸の街に転居する現象が起きている。千葉県銚子市が2007年度以降の転出者を調べて判明した。全転出者の1割以上の行き先は、利根川対岸の茨城県
鹿島臨海工業地帯を抱える人口9万4000人の神栖。固定資産税収入は年120億円規模で、一般会計の4分の1にも達する。豊富な財源を使い、市は〈通院医療費の自己負担は中学3年まで1回600円以下〉〈小学校の給食費約半額を補助〉などの子育て支援策を打ち出した。
長男がこの春、小学生になるベビーマッサージ講師の花塚瑞穂さん(32)も昨年12月、銚子から引っ越した。子供は3人。「これからを考えると給食費の補助は大きい。児童館も多く、子育てしやすい」
銚子はここ数年、人口が毎年1000人以上減り、7万人を切った。税収が年1億円ペースで減る中、市立病院の赤字で毎年数億円の補てんを余儀なくされるなど、財政は厳しい。市幹部は「サービス合戦では神栖に太刀打ちできない」とため息をつく。
14年の民間研究機関・日本創成会議の報告で、足元で進む人口減への危機感が一気に広がった。しかし、島根県
地域活性化策コンテストを10年に始めた。ありふれた事業にならなかったのは、地元の金融機関などを巻き込み、入賞者に「街ぐるみの支援」を用意したからだ。入賞者は、古民家を改修したカフェ、空き店舗を改装するデザイン会社などを起業。追随する移住者も増え、約40軒あった駅前の空き店舗の半分に、飲食店やネイルサロンなどが出店した。雇用も増え、にぎわいも戻りつつある。
「知恵は地方にある」
政府のまち・ひと・しごと創生本部が発足した昨年9月、石破地方創生相は講演でそう語った。だが、自治体が計画する15年度事業で目立つのは「所得制限なしで第3子以降の保育料を無料化」(福井県)、「中学生以下の子供がいる移住世帯などを対象に住宅購入費最大100万円を補助」(山形県酒田市)など、カネで人を集める「知恵」だ。これでは自治体による人の争奪戦にしかならない。
人口減対策は、統一地方選の大きなテーマになる。
たとえば、日本創成会議の報告で、3分の1の市町村が「消滅可能性自治体」と指摘された福岡県。知事選の候補予定者たちは、事務所開きで「余力のある今こそ、人口減少に備えなければ」と訴え、人口減対策のアイデアを出し合う対話集会を開いている。
大阪市立大の竹中恵美子名誉教授(労働経済論)は指摘する。「定住のためには、地域や職場ぐるみで子育て世帯を支える仕組みや雇用の創出が不可欠。お金だけ出しても子育てしやすくなるわけではない」
誘致した企業に依存し、打撃を受けた江津市が、再起に向けて大切にしたのは「起業する人材の誘致」。企業や人口でなく、一人ひとりの人材だった。