[参院選2019 注目区を行く]<2>県連・党本部 同士打ち…広島
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広島では自民党が骨肉の争いを繰り広げている。
「運が悪いのか、苦しいときになると必ず相手が現れてケンカになる。皆さんにとってどちらが役に立つか、考えてやってください」
公示日の4日午後、福山市内の広場で出陣式に臨んだ党公認、溝手顕正(76)のしゃがれ声が響いた。「ケンカ相手」は野党候補ではなく、もう1人の党公認、河井案里(45)のことだ。
自民党は広島選挙区(改選定数2)に21年ぶりに2人を擁立した。新人の河井は、首相の安倍晋三(64)に近い党総裁外交特別補佐、河井克行(56)の妻だ。県連は河井擁立に猛反対したが、安倍の意を受けた党本部が押し切った。
地元の反発覚悟で安倍が2人擁立にこだわったのは、議席の上積みに加え、溝手との「遺恨」のためとの見方が専らだ。
安倍が第1次内閣時の2007年参院選で惨敗した際、防災相の溝手は「首相の責任」を公言。12年に参院幹事長を務めていた際は、安倍を「過去の人」と言い放った。安倍は公示前から地元・山口県の秘書を入れ替わりで河井陣営に送り込む熱の入れようだ。
危機感を募らせた溝手陣営では一時、無所属で出馬した森本真治(46)、共産党公認の高見篤己(67)の一本化を水面下で働きかけようとする動きもあった。野党票を一人に集め、河井を落とそうというわけだ。
広島は党政調会長の岸田文雄(61)のお膝元で、溝手を含む岸田派議員6人を擁する。岸田は安倍を支えて後継を狙う「禅譲」路線を基本戦略とし、安倍に忠誠を尽くしてきただけに、派内には不満がくすぶる。
岸田は6月に安倍と会食した際、河井の支援を求められたとされる。板挟み状態の岸田だが、選挙戦では自派の溝手支援に徹している。広島入りした6月30日には、「それぞれが全力でそれぞれの勝利のために努力する。選挙結果は努力の結果だ」と記者団に語った。
岸田への党内の視線は冷ややかだ。党幹部は「首相になりたいなら、党のために2人通すのがスジだ」と突き放す。
官房長官の菅義偉(70)は太いパイプを持つ公明党に河井へ票を回すよう働きかけている。選挙対策委員長の甘利明(69)は周囲にこう語った。「県連が100%溝手をやるなら、党本部は100%河井をやる」
仁義なき戦いを演じるのは自民だけではない。(敬称略)
■広島(改選定数2)
河井 案里 45 自新 <公>
泉 安政 66 諸新
玉田 憲勲 61 無新
高見 篤己 67 共新
加陽 輝実 69 諸新
森本 真治 46 無現《1》 <立><国><社>
溝手 顕正 76 自現《5》<公>〉
(敬称略、届け出順、年齢は投票日現在、<>は推薦・支持政党)

野党激突 知名度VS組織…静岡
天下人・徳川家康も居城とした静岡市の駿府城。立憲民主党公認で、徳川宗家19代目に当たる徳川家広(54)は4日、出陣式を同城公園にある家康の像の前で行った。
「家康はここで新しい時代をどう築くかを考えた。ここから江戸の平和が始まった。今ほど平和が危機にさらされている時はない」
家康とゆかりの深い静岡で、立民は国民民主党の現職、榛葉賀津也(52)を相手に「国取り」を仕掛けた。
改選定数2の「2人区」は通常、与野党が議席を分け合う「無風区」だ。旧民主党系同士の政党が争う事態は、民主党政権下で2議席独占を狙った2010年以来。全国に四つある2人区のうち、立民、国民両党が候補者調整を行わなかったのは静岡だけだ。
野党同士の「つぶし合い」の背景には、参院幹事長も務める榛葉に対する立民側の不満がある。国会戦術を巡り、榛葉と立民は幾度となく対立してきた。旧民主党時代には、榛葉は「参院のドン」だった元参院副議長・輿石東(83)に重用され、「冷遇された立民の福山幹事長とは因縁の仲」(立民参院幹部)とされる。
立民が刺客として放った「徳川」の名前は、家康が幼少期や晩年を過ごした静岡県内では、特別な意味を持つ。徳川陣営は「だれでも歴史の授業で『徳川』とノートに書いた経験はある。今度は投票用紙に同じように書いてほしい」と期待する。演説会場の聴衆からは、その福々しい丸顔に「家康公の肖像画とそっくり」との声まで上がる。
「知名度」は抜群だが、懸念は立民の組織力の弱さだ。県選出国会議員はゼロで、県連所属の地方議員も7人にとどまる。活動は街頭演説が中心で、党本部も副代表の蓮舫(51)ら幹部を公示前から続々と投入して後押しする。
陣営幹部は、保守系の地方議員らにも支援を呼びかけている。「徳川なら応援するという人は保守層にも多い」とみて、立民支持層以外にも働きかけを強める作戦だ。
「いくら与党が巨大でも、反対のオンパレードで批判票をもらう政治を国民は望んでいない」
4日、掛川市内での第一声で榛葉は、立民の姿勢をこう当てこすった。国民民主党代表の玉木雄一郎(50)も駆けつけ、「今の権力者とかつての権力者を相手に、庶民の代表が戦う選挙だ」と援護射撃した。
当選3回の榛葉の強みは、徳川にはない組織力だ。県連所属や連合静岡推薦の地方議員約75人が陣営に入り、各地で集会を開催するなど支援に奔走する。連合静岡も昨年5月、「過去3回の選挙を手伝い、信頼関係もある現職を推すのは当然」(幹部)と、早々に榛葉の推薦を決め、立民系の産業別労働組合も榛葉支援でまとまった。
徳川は出馬表明後、連合に事前の約束なしにあいさつに訪れたが、事務員が駐車場で応対し、事実上の「門前払い」をした。県内には自動車大手「スズキ」の本社もあり、連合の組合員は製造業を中心に約20万人に上る。陣営幹部は「向こうが殿様なら、こっちは労働者の代表だ」と息巻く。
自民党現職の牧野京夫(60)は、野党間の争いを冷めた目で眺める。自民党内でも議席独占を目指して2人擁立論が浮上したが、共倒れ懸念から回避された。牧野は4日の第一声で、現職の国土交通副大臣としての実績を強調した。陣営幹部は「野党が足の引っ張り合いをしている間に、1位当選を目指すだけだ」と淡々と語る。(敬称略)
■静岡(改選定数2)
牧野 京夫 60 自現《2》<公>
徳川 家広 54 立新
榛葉賀津也 52 国現《3》
鈴木 千佳 48 共新
畑山 浩一 49 諸新
(敬称略、届け出順、年齢は投票日現在、<>は推薦・支持政党)