[参院選2019]今後の展望 識者に聞く

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 参院選は、改選過半数を獲得した与党の勝利で幕を閉じた。強固な政権基盤を維持した安倍首相は憲法改正に意欲を示す。社会保障制度改革など内閣が取り組むべき課題は山積している。選挙の総括とともに今後の展望を識者3人に聞いた。

総論:長期的課題 向き合う時…京大教授 待鳥聡史氏

まちどり・さとし 専門は比較政治論。大阪大助教授などを経て現職。著書に「代議制民主主義」「民主主義にとって政党とは何か」など。48歳
まちどり・さとし 専門は比較政治論。大阪大助教授などを経て現職。著書に「代議制民主主義」「民主主義にとって政党とは何か」など。48歳

 与党の勝利に驚きはない。有権者は2012年の第2次安倍内閣発足からの6年半、基本的に現政権を評価している。多くの人が「景気は一時期の停滞を脱した」という肌感覚を持ち、経済政策の転換を望んでいない。07年以降の「ねじれ国会」の経験から、参院選での波乱は政治の不安定につながることを有権者は知った。「与党におきゅうを据える」という投票行動は取りにくくなっている。

 今回の参院選で与党は「政治の安定」を訴えた。それを有権者は受け入れたわけだが、低投票率の現状からは「他に選択肢がない」という消極的な姿勢も垣間見える。「れいわ新選組」の議席獲得は、強い現状不満層の存在もうかがわせる。

 55年体制で始まる自民党の歴史の中で、第2次安倍内閣以降は国政選の勝利と内閣の存続が、より強く連動するようになった。かつての自民党は派閥力学が優先されがちで、海部内閣のように国民的な人気はあっても比較的短期で終わる政権もあった。時の政権が有権者とのつながりを重視するという意味で良い傾向だ。

        ◎

 マイナス面もある。

 短期的に選挙に勝つことを積み重ねていけば、長期政権が実現しやすくなった。長期政権が目的化すると、常時「選挙対策」を意識するようになる。安倍内閣でも消費増税を2回延期したことは、その典型と言える。権力をかさに着たような言動が安倍首相の周辺や、首相自身にも見られることはただすべきだ。

 首相の通算在職日数が歴代1位となるのはほぼ確実で、日本の政治史上「安倍時代」とも呼べるものだ。これまでは財政再建など世論受けが悪い政策への取り組みが総じて弱かったが、長期政権にふさわしい長期的な課題に向き合うべきだ。特に、外国人材の活用を含めた雇用慣行の変革など、日本の社会経済構造全体の将来像を描いてほしい。

        ◎

 外交でも今後数十年、日本がよって立つ基盤は何かを示すべきだ。戦前の伊藤博文、桂太郎、戦後の吉田茂ら長期政権の首相はそういう基本図を描いてきた。

 欧州を中心に政権が不安定になる中、日本は国際政治で存在感を増している。首相には日本外交の基盤として「自由で開放的な秩序」を訴えてほしい。他国に求めるだけでなく、外国人の受け入れを含めて日本を国際的にオープンにする。それが日本にとって最善で、国際社会にもプラスだと説き続けることだ。

 北朝鮮や北方領土交渉などの個別課題になると、首相の自民党総裁任期が満了する21年9月までの解決は容易ではない。米朝関係も実態的には何も進まない状態が続くとみられ、日本の関与は限られている。だからこそ、日韓関係の修復は重要だ。文在寅ムンジェイン大統領の次の政権を見据え、どう布石を打つかが問われる。

 ホルムズ海峡を巡る米国主導の有志連合には、イラン核合意に参加した国々の動向を見極めて慎重に対応すべきだ。トランプ米大統領は日米安全保障条約のあり方を交渉材料にするかもしれないが、日本が有志連合に不参加だからといって同盟が破棄されることはあり得ない。

        ◎

 野党は依然低迷している。参院選では消費増税反対や年金の給付増を訴えたが、財源なき空論の印象を拭えなかった。有権者に選択可能な政党間競争を作り出せておらず、役割を果たしていない。

 野党第1党の地位を確立した立憲民主党は、かつての社会党になるのか、政権を担える党になるのか、重大な岐路に立ったとの認識を持つべきだ。現状に代わる新たな国際秩序の説得力ある構想を欠いたまま安全保障関連法廃止などを掲げ、固定支持層だけを相手にしていたら党勢はすぐに衰える。

 枝野代表ら与党経験のある野党議員がいるうちに意識改革しないと手遅れになる。今後の5年、10年は野党にとって、ひいては日本政治にとって極めて重要だ。(政治部 小坂一悟)

憲法:議論へ 一定の信任…関西学院大教授 井上武史氏

いのうえ・たけし 専門は憲法学。仏パリ第1大客員研究員、九州大准教授などを経て現職。著書に「結社の自由の法理」、共著に「憲法裁判所の比較研究」など。42歳
いのうえ・たけし 専門は憲法学。仏パリ第1大客員研究員、九州大准教授などを経て現職。著書に「結社の自由の法理」、共著に「憲法裁判所の比較研究」など。42歳

 不思議な選挙だった。争点がはっきりせず、野党の目標は、自民、公明の与党と日本維新の会などの改憲に前向きな勢力が、憲法改正の国会発議に必要な「3分の2」に達しないよう阻止することだったように見えた。

 結果、3分の2には届かなかったが、憲法改正に反対の民意が示されたとみるのは正しくない。安倍首相は今回の参院選で「憲法を議論する政党か、議論すらしない政党や人を選ぶかだ」と踏み込んだ。与党が勝利したことで、むしろ憲法の議論を進めることに一定の信任を得たと受け止めるべきだろう。

 元々、3分の2はそれほど重要な数字ではない。憲法改正は、時の与党だけで行うのではなく、なるべく多くの野党の賛同を得ることが望ましいという趣旨だ。現行憲法には欠陥や不備がたくさんある。3分の1の少数派が、議論すら認めない「拒否権」を持つべきではない。

        ◎

 首相は自民党総裁任期が満了となる2021年9月までの約2年間で、憲法9条への自衛隊の明記など4項目の自民党改憲案をたたき台とした憲法論議を本気で進めようとするだろう。

 最大の難関は連立与党の公明党ではないか。事前の与党協議は難しいので、自民党案を憲法審査会に示し、維新や国民民主の両党と協議しながら議論を進め、改憲ムードを高めるのが一番現実的だ。改憲について議論する有識者会議を設置してもいい。首相が、憲法裁判所設置論など野党の意見も取り入れる包容力を示せるかどうかがカギだ。憲法論議に関しては、数の力で押していくのは難しい。

 最優先されるべきは、二院制も含めた参院改革ではないかと考えている。現行の参院選挙制度は複雑で、どんな民意が反映されたのかわからなくなっている。

 例えば、改選定数1の「1人区」では、最多得票した人だけが当選するが、東京(6人区)のような複数区では最多ではない人でも当選できる。鳥取・島根などの「合区」ができたことで都道府県単位という理念も薄れ、「特定枠」によって比例名簿に順位をつけない非拘束式の比例代表の位置づけもあいまいになった。参院を「地域代表」と憲法に位置づけるなど大きな議論をしていかないと、参院不要論が高まるだろう。

 首相は9条への自衛隊明記など、憲法改正を1回実現すればいいという姿勢ではなく、今後10年を見据えた憲法論議の大きな道筋を示してほしい。

        ◎

 野党第1党の立憲民主党がかつての社会党のように、改憲に反対する薄い支持層にだけ訴えているように見えるのは残念だ。自民党案に問題点があれば指摘すればいいのであって、案すら出させないのは横暴だ。

 日本の憲法は英語にすると5000語くらいで、諸外国と比べて大幅に分量が少ない。法律や判例、解釈、運用などで形成された「裏ルール」で憲法の分かりにくさを補っている。だが、立民などが訴える立憲主義は本来、憲法だけ読んでルールが理解できなければ成り立たない。野党は、立憲主義や民主主義をより深化させるという立場からも、前向きに憲法論議に向き合うべきだろう。(政治部 豊川禎三)

経済:社保改革 負担説明を…日本総研理事長 翁百合氏

おきな・ゆり 専門は金融論。京都大博士(経済学)。日本銀行を経て1992年に日本総研に入社し、2018年から現職。政府税制調査会の委員なども務める。59歳
おきな・ゆり 専門は金融論。京都大博士(経済学)。日本銀行を経て1992年に日本総研に入社し、2018年から現職。政府税制調査会の委員なども務める。59歳

 消費税率10%への引き上げを公約した自民、公明の与党が改選定数の過半数を確保した意義は大きい。消費増税は、歴代の政権にとって鬼門だった。高齢化で社会保障関係費は膨らんでいる。財源がなければ様々な対策を講じられないということが、やっと一定数の国民に理解されたのだろう。

 野党は消費増税に反対したが、代替財源をどう確保するか、説得力がある選択肢を示すことができなかった。若い世代の有権者の投票先が自民党に集まったとされるのも、自分たちの将来を野党に任せる安心感を持てなかったからではないか。

        ◎

 全体的な印象としては、地に足の着いた論争がない選挙戦だった。社会保障制度改革は与野党とも踏み込み不足だった。財政健全化の議論は後退し、全く論戦が交わされていないと言われても仕方ない。年金のほかに2000万円の資産が老後に必要だとした金融審議会の報告書については、不安をあおらず説明し、もっと国民に見える形の論争が必要だった。

 安倍首相が掲げる経済成長で社会保障の財源を確保するという姿勢は正しい。高齢者が長く働ける環境を整備して、一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」を見直したり、受給開始年齢をもっと幅広く選べるようにしたりすることも必要だ。

 医療改革では、過剰な投薬や重複受診など、明らかに見直しが必要な部分もある。所得が高い高齢者には、負担をしてもらわないといけない。安定政権だからこそ、国民に現状を説明し、骨太な議論をしてほしい。

 安倍首相は10%を超える消費増税に否定的な見解を示した。だが、社会保障制度改革の議論では、給付と負担のバランスを考えなくてはならないので、消費税論議と無関係ではない。消費税を今後10年間、10%超に引き上げない場合、給付に相当斬り込まないといけない。

        ◎

 今回、アベノミクスの検証が十分に行われたとは言い難い。株価が上昇し、雇用情勢も堅調で、成果が出ていることは確かだ。しかし、潜在成長率や生産性の伸びは鈍く、経済のデジタル化に対応できる成長戦略を強化しなくてはならない。

 日本銀行の大規模な金融緩和策に頼り過ぎていることも心配だ。日銀の国債や上場投資信託(ETF)の買い取りには限界があり、金融政策に「のりしろ」がなくなっている。金融政策の正常化に向けた出口戦略を本当に実行できるのかという感じがする。

 当面は10月の消費増税を乗り越えられるかどうかが課題だ。政府はポイント還元など手厚い対策を用意しており、景気への悪影響は前回の引き上げより随分と小さいだろう。ただ、景気対策に依存しない持続的な成長のため、高齢者の働き手を増やしたり、就職氷河期の人たちへの支援を強化したりすることが大切だ。

 一方で、海外経済はリスクが高まっている。米国と中国の貿易摩擦や中国景気の減速、中東情勢は日本経済に大きな影響を与える。英国の欧州連合(EU)からの離脱問題を抱える欧州の環境も決して良いと言えない。

 経済成長と財政再建の両立は「ナローパス(狭き道)」だ。可能かもしれないが、相当難しいだろう。(経済部 坂本幸信)

無断転載禁止
703235 0 参院選2019 2019/07/23 05:00:00 2019/09/19 15:45:42 参院選を総括する待鳥聡史・京都大大学院教授(16日午後、京都市左京区で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190722-OYT1I50097-T.jpg?type=thumbnail

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