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北への対応 危機感薄く

拉致問題に関する政府の対応方針

 「拉致被害者の家族は必死の思いで戦っている。北朝鮮の金正日体制をどう追い込むべきか。各党がもっと論を戦わせるべきではないか」——。北朝鮮による拉致被害者の支援組織「救う会」の平田隆太郎事務局長は、年金問題一色の選挙戦に失望を隠せない。

 参院選公示の12日、北朝鮮に向けて支援の重油を積んだ第1船が韓国を出港した。北朝鮮は核施設の稼働を停止し、18〜20日には6か国協議が再開された。核をめぐる危機が一見、遠のきつつあることが、論戦から北朝鮮問題をはじき出している。

 1年前の7月5日、北朝鮮は日本海に向けてミサイルを連続発射し、日本列島は危機感に包まれた。10月9日には北朝鮮は核実験を実施。一方、発足直後の安倍政権は、直ちに拉致問題対策本部を設置し、6項目の厳しい対応方針を打ち出した。終盤を迎えた選挙戦に、当時の緊張感はない。

 年金問題で野党の攻勢を受けて立つ安倍首相は各地での演説を拉致問題で締めくくる。「国家の威信をかけて、すべての拉致被害者がこの地を踏む日まで、強い意志で取り組んでゆく」

 一方の北朝鮮は、拉致問題で強硬姿勢を取り続ける安倍政権排除を狙う。23日の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、「安倍一派は腐敗政治と決別し、自ら権力の座から退くのがよいだろう」との論評を掲載し露骨にけん制している。

 対米関係改善に向けて微笑外交に転じた北朝鮮だが、核放棄の道筋は遠い。6か国協議の中に設けられた日朝関係正常化のための作業部会は8月中に開催される見通しだ。その場で北朝鮮を追い込み、いかに突破口を開くか、その具体的知恵が問われている。

 そのためには、6か国協議の他の参加国、とりわけ米国との呼吸合わせが重要となる。しかし、日本がこだわる拉致問題を巡って日米の温度差が漂い始めている。核問題解決を対北朝鮮交渉の最大の目標に据える米国は、北朝鮮が条件として突き付けるテロ支援国指定解除問題で微妙な対応を見せる。6か国協議の米国首席代表を務めるヒル国務次官補は23日の記者会見で、「8月の米朝作業部会で指定解除問題の議論を継続する」と述べた。「拉致問題の解決なしに指定を解除すべきでない」という日本の主張とのずれを埋める努力が不可欠だ。

 自民党は、比例選候補として拉致問題担当の中山恭子首相補佐官を出馬させた。「拉致問題なら中山」との知名度の高さを武器に、「金正日に日本国民の拉致問題での関心の高さを突きつける」のが安倍首相の狙いで、中山氏を説き伏せた。しかし、野党の年金攻勢の前に、訴えはどこまで届いているのか、陣営も手探りの選挙戦が続く。

 6か国協議で日本の存在感が薄れていく中、自民党の加藤紘一・元幹事長が17日、都内の講演で安倍内閣の北朝鮮政策を厳しく批判した。「核問題をめぐり米朝の間で大きな動きが出始めている。首相はイデオロギーで外交を進めすぎて、柔軟な道を取れないでいる」。与党内の異論さえ、選挙後をにらんだ党内力学の駆け引きと見えなくもない。

 「元気なめぐみちゃんを抱きしめてあげたい。しかし拉致は国家間の問題。母の力ではどうしようもない。政治に頼るしかないのです」。家族会の横田早紀江さんの訴えは、すべての候補者に向けられている。(編集委員 宇恵 一郎)

2007年7月25日  読売新聞)
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