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感情と科学の間、答えのない問い…カズオ・イシグロインタビュー<3>

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人間とは何か

(演説抜粋)
“There are so many crucial boundaries … I was particularly interested in that … between life and death to some extent, and between … not exactly human and robot, but, is it possible to ‘continue’ a human being after death?
“If we have the actual technical means, not just to preserve their memories, but to preserve all their impulses and wishes and desires through algorithms.”

(和訳)
 極めて重要な境界が、とてもたくさんある。とりわけ興味を覚えたのが、ある程度は生と死の間…いや正確には人間とロボットの間ではないのだが、死後も人間を「継続」できるか、ということだ。
 もし我々が実際に技術的手段を持っていて、単に記憶を保存するだけでなく、衝動や願い、欲望をアルゴリズムで保つことができたとしたら、どうだろうか。

 記者から、『クララとお日さま』で、生と死、人間とロボットの境界について問われた答えが上の抜粋だ。文があまり整っていないのは、頭の中で思いを巡らせているからだろう。

 聞かれたことに答えながら、もっと根源的な自分自身の問いへとつなげようと考えている過程は、“to some extent” や、“not exactly human and robot, but” といった部分にもうかがえる。

 人工知能が十分に発達すれば、それは人間と同一と見なされるまでになるのか。描きたかったのはその部分であることを、イシグロ氏は示唆している。もちろん、質問の「境界」はとても興味深い視点だ、と後で謝辞を述べている。

 “continue” は中学で学ぶ基本的な単語だが、ここでは「人間を継続する」とは何かという、作者自身の哲学的な問いも含んでいる。物語の中でも重要な意味合いを持つ表現で、原書の英語版では “continue Josie” と母親やクララが話し、和訳ではジョジーを「存続させる」「つづける」「継続する」などと言い換えている。

 “algorithm” は、問題を解くために順を追ってたどっていく方法を指す。9世紀に活躍したペルシャの数学者 al-Khwarizmi が語源だという。

AIは「まだ」恐れるレベルではない

(演説抜粋)
 “I’m just answering now out of my general interest about this question. This doesn’t necessarily relate to the novel specifically; I should make that clear.
“At the moment as things stand, I don’t have any big fear about robots, attacking us or taking over from human beings.”

(和訳)
 私の一般的な興味から今、この質問に答えます。この物語に具体的に関係があるわけではない。そこははっきりさせる必要がある。
 現時点の状況から、ロボットが人間を攻撃したり、人間に取って代わるといった大きな恐れを私は持っていない。

  人工知能が高度に発達し、ロボットが人間を襲ったり、征服したりしないか。そんな心配は、SF 小説の中だけでなく、2016年に囲碁用 AI の AlphaGo が人間のトップ棋士を破った時期にも広まった。

 イシグロ氏もこの点について、専門家に質問や議論を繰り返したであろう。記者からの質問への回答は明快で、素っ気ないほどだ。あくまで物語とは別の話だと、“my general interest” や “doesn’t necessarily relate to the novel”、“make that clear” などの表現で念入りに話している。

 日本語からはイメージしにくいが、よく使われる表現が動機や理由に関しての “out of …” だ。“I did it just out of curiosity.”(つい好奇心でやった)、“I ran away out of fear.”(恐怖心で逃げた)などがある。好奇心など気持ちの塊があって、そこからぽんと何かが飛び出る様子を思い浮かべると、感覚的になじみやすいかもしれない。

 さて、AI を恐れるべき時が来るとしたら、どんな時か。イシグロ氏はこう語る。

 “When the day comes, when a novel written by an artificial intelligent machine actually really moves me and makes me cry, I would be very concerned and alarmed. Not just because my career might be affected, but because when AI can do that, it means that you can use AI for, let’s say, a political campaign.”
 (AI が書いた小説が私を感動させ、泣かせる。そんな時が来たら、私は非常に懸念し、警戒するだろう。自分の仕事に影響があるからではなく、そうなったら、AI を、例えば政治活動にも使えるからだ)

 政治的目的のために人の心を操る怖さを訴える部分だが、そこでも、まずは少しジョークを交えるあたり、さすがと言うべきだろう。

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2049659 0 ちょい読み英語 2021/05/15 09:00:00 2021/05/15 09:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210513-OYT8I50094-T.jpg?type=thumbnail

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