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ノーベル受賞講演に作品のヒント…カズオ・イシグロインタビュー<4>

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通底する科学技術の暴走への不安

(演説抜粋)
“And around the corner – or have we already turned this corner? – lie the challenges posed by stunning breakthroughs in science, technology and medicine.
“New genetic technologies – such as the gene-editing technique CRISPR – and advances in Artificial Intelligence and robotics will bring us amazing, life-saving benefits, but may also create savage meritocracies that resemble apartheid, and massive unemployment, including to those in the current professional elites.”

(和訳)
 そしてすぐそこの角に、あるいは我々はもう曲がってしまったか、試練が横たわる。科学、技術、医学の驚異的な進歩が突きつける試練が。
 例えば遺伝子編集技術のクリスパーのような新しい遺伝子技術や、人工知能やロボット工学における進歩は、驚くような、命を救う恩恵をもたらすだろう。だが、アパルトヘイトのように極端な能力至上主義や、大量の失業者を生み出すかもしれない。その影響は、現在の専門職エリートにまで及ぶ。

 カズオ・イシグロ氏がノーベル賞を受賞したのは2017年12月。その時には『クララとお日さま』は3分の1ほど書き進んでいたという。

 ストックホルムでの受賞講演に、新作をうかがわせるヒントがないか探してみた。約50分のレクチャーの終盤で示した、科学技術への懸念にそれらしき言及があった。

 クリスパーは、昨年のノーベル化学賞にも選ばれた、遺伝子の一部を切ったり挿入したりする技術だ。物語では、子どもを優秀な人間にするために施す「向上処置」がそれを示す。処置を受けた子どもを原書では “lifted” と表現し、経済力のある家庭の子どもだからこそ受けられる、一種の特権であることが感じられる。

 2005年の “Never Let Me Go”(わたしを離さないで)で題材になったのは、人間を丸ごと複製する「クローン」技術だ。『クララ…』では、必要な部分を編集できる最新技術を導入することで、作品の迫真性を増している。

 抜粋の最初の文は挿入句もあり、複雑に見えるかもしれないが、基本は “There is …” 構文と同じだ。There の代わりに “around the corner” を、be 動詞の代わりに “lie” を置き、“the challenges” が主語になる。“There lie the challenges …” としてもよいが、この形にすることで、曲がり角(the corner)を我々は迎えたのかどうかについても、聴衆は考えさせられただろう。

登場人物の関係を作り込む

(演説抜粋)
 “The thought came to me … that all good stories, never mind how radical or traditional their mode of telling, had to contain relationships that are important to us; that move us, amuse us, anger us, surprise us. Perhaps in future, if I attended more to my relationships, my characters would take care of themselves.”

(和訳)
 こんな思いが起こった。優れた物語はすべて、その伝え方が急進的か伝統的であるかを問わず、我々にとって重要な関係性を含んでいるはずだと。我々を感動させたり、楽しませたり、怒らせたり、驚かせたりするような関係だ。おそらく今後、注意深く関係性を作れば、私のキャラクターたちは、ひとりでにその役割を果たしていくのではないか。

人々の感情に触れるのが物語だが…

ノーベル賞の晩さん会でスピーチするカズオ・イシグロさん(2017年12月、ロイター)
ノーベル賞の晩さん会でスピーチするカズオ・イシグロさん(2017年12月、ロイター)

 講演でイシグロ氏は、自分の作風に転機を与えた文学、音楽などの作品を紹介した。抜粋はその一つ、ある古い映画のビデオを見ていた時の気づきで、『クララ…』にも通じる要素だろう。本シリーズの初回で「創り出した人物が、ひとりでに動き出す」と紹介したが、そのような状況に達する前段階として、登場人物やそれぞれの関係をしっかりと作り込んでいたことがわかる。

 この文で、簡単なようで訳しにくいのが “take care of …” だ。「~の世話をする」「~に気をつける」が一般的な和訳で、きちんとした心配りが感じられる。対して英語で無生物を主語にした “it takes care of itself” は、「何とかなるよ」「放っておいても大丈夫」のような、もう少し突き放した意味合いもある。

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2084300 0 ちょい読み英語 2021/05/29 09:00:00 2021/05/28 16:20:58 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210528-OYT8I50045-T.jpg?type=thumbnail

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