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    映画

    一時の夢経て再び現実へ…「リップヴァンウィンクルの花嫁」

    「リップヴァンウィンクルの花嫁」(ロックウェルアイズ、日本映画専門チャンネル、東映ほか)

     主人公の皆川七海=写真=が生きる世界は、何と現実感が薄いのだろう。

     七海は、まず、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で男性と知り合う。「ネットで買い物をするみたいに、あっさり手に入ってしまった」。派遣教員をしている教室では、声が小さいと、生徒にマイクを持たされる。知り合いの女性にキャバクラで働いていると伝えられても、曖昧な反応しかできない。

     ふんわりした雰囲気の黒木華が演じているから、余計切迫感が感じられないのかもしれない。しかし、そんな彼女も、結婚して、いや応なく現実世界に巻き込まれていく。新婚生活はほころび、簡単に得られたように思えた幸福はみせかけだったことが分かってくる。

     夫の不倫疑惑に端を発し、七海が家を飛び出すまでが約1時間。夫婦の仮面がはがれていく展開は、それほど目新しくはない。岩井俊二監督の4年ぶりの実写長編作となる本作で、本領を発揮するのはこの後の2時間だ。

     行き場を失った七海に、なんでも屋の安室(綾野剛)が手を差し伸べる。結婚式に親族のふりをして出席するバイトを得た彼女は、真白(Cocco)という女性と知り合いに。豪邸の住み込みメイドとして一緒に働くようになった2人は、次第に引かれあっていく。

     豪邸はおとぎ話の世界のよう。七海のメイド服姿もしっくりくる。現実と折り合えなかった彼女にとって、生きる実感がわくのはこちらの世界。新たな冒険への導き手である真白と純白のドレスを身に着けた時の幸福感はどうだろう。七海にとって2度目のウェディングドレス。本物の花嫁のように見えるのがどちらかは明らかだ。

     音楽に乗りゆれるカメラが映し出す甘美な映像は、監督の美学が全開だが、最終盤の展開に不意を突かれた。

     AV女優の仕事もしていた真白が生身の人間であったことを、真白の母(りりィ)の肉体によって、思い知らされるのだ。浮遊感は消え去り、スクリーンに生々しさが充満する。夢の世界と背中合わせにべったりはりついた現実があらわになり、観客の感情も激しく揺さぶられよう。

     「リップヴァンウィンクル」は米国の短編小説の主人公の名。寓話ぐうわ同様、七海も一時夢を見る。そして、悲しみを救済する儀式を経て、彼女は目覚め、再び現実と向き合う。今度こそは、その世界で幸福を見いだせるだろう。新しい冒険の幕開けを祝福したくなった。3時間。新宿バルト9など。(近藤孝)

    2016年04月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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