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    映画

    「さざなみ」 (英)

    結婚45年 夫の愛に疑念

     原題は「45 YEARS」。

     結婚して45年、夫と重ねた歳月の意味に目を凝らさずにはいられなくなった妻の6日間の物語である。

     妻ケイト(シャーロット・ランプリング=写真)は60代後半、夫ジェフ(トム・コートネイ)は70代前半。子どもはおらず、2人暮らし。ともに仕事を引退し、地方都市周縁で穏やかに暮らしてきた。

     だが、ある月曜の朝に届いた1通の手紙が、ふたりの日常に波紋を広げる。それは、ジェフのかつての恋人、カチャの遺体発見の知らせ。50年以上前、ジェフと共にスイスを旅していたカチャは、雪山のクレバスに落ちた。遺体は澄んだ氷の中、当時のままの姿で発見されたという。

     その週の土曜日にはケイトとジェフの結婚45周年を祝う大事なパーティーがあるというのに、ジェフは浮き足立つ。「ぼくのカチャ」と口走り、遺体を確認するためにスイスへ行くとまで言いだす始末。なぜ、そんなにも――。

     カチャのことは、自分と出会う前のこと。元教師できわめて理性的なケイトは、寛容に振る舞おうとするが、内心は揺れている。自分はカチャの代替だったのではないか。不安は、疑念に変わり、やがて不信へ。その内なる変化を表すのが、ふとした折りの表情であり一挙一動。不信が深まるほどに色を失い、冷えていく。その心情を静かに表現するランプリングの演技のなんという素晴らしさ、迫力。

     一方、コートネイ演じる夫はなんと無邪気なことか。自分が最も輝いていたであろう時代――その大きなハイライトがカチャと旅した1962年なのだろう――への執着、そして秘密の存在を隠せない。妻はともに時を刻み続けようとしているのに、夫は過去のほうばかり見ている。終幕のパーティーで、彼は、自分のかつての選択について語り、客たちを感動させる。でも、妻が夫を見つめる目は物語る。その心の中で何かが終わり、何かが始まったことを。

     愛の問題。生き方の問題。アンドリュー・ヘイ監督は、名優たちの繊細な演技や、その周囲の空気をまるごととらえながら、人生、そして人の心の複雑さを浮き彫りにしていく。こわく、切ない、女と男の物語。最後の一瞬まで片時も目が離せない。

     ランプリングとコートネイ、60年代に鮮烈に世に出たふたりが、それぞれまったく違う形で、その時代を引きずる役を演じているのも感慨深い。昨年のベルリン国際映画祭で最優秀女優賞と同男優賞を受賞。1時間35分。シネスイッチ銀座など。(恩田泰子)

    2016年04月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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