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    テレビ

    大河「直虎」がジブリ「もののけ姫」っぽい理由

    国士舘大学文学部講師 夏目 琢史

    歴史の闇に消えた女性

    • (NHK提供)
      (NHK提供)

     第三として挙げられるのは、引佐地方の山間部――遠江井伊氏が拠点をおいた「渋川」「川名」「伊平」などの地は、「もののけ姫」を彷彿させる雄大な自然に支えられている点だ。

     武田、徳川氏が衝突した三方ヶ原合戦の前哨戦が行われたという仏坂周辺に、今もその面影が残る。次郎法師(直虎)が生きた、戦国時代の遠江引佐の山間部では、まさに「文明」と「自然」の対立が繰り広げられていた。

     そして、次郎法師の時代が過ぎ、この地で統一権力による「検地」がおこなわれるようになると、引佐地方の「自然」も「文明」のなかにやがて包摂されていくことになる。

     次郎法師(直虎)は、遠州における「自然」から「文明」への“時代の転換”の目撃者であり、当事者であった。そして、度重なる戦乱によって、親族たちが次々と戦死するなかにあって、次郎法師は、自ら先頭に立たなくてはならなくなった。

     しかし、彼女自身も(もののけ姫の「エボシ御前」もおそらく、そうだったであろう)、やがて忘れられ、歴史の闇の中に消えていく運命にあったのだ。

     もちろん、映画「もののけ姫」は、特定の時代と地域を意識した物語ではなく、固有な世界観を持つ一つの作品だ。本来ならば、安易にイメージを当てはめることは、慎まなくてはなるまい。しかし、ここまで述べてきたように、調べれば調べるほど、「直虎」の世界と、「もののけ姫」の世界には多くの共通点が見えてくる。

    「自然」と「文明」の共存

    • (NHK提供)
      (NHK提供)

     こうした共通点が生まれる理由は、案外、単純なのかもしれない。

    「もののけ姫」が描いているのは、「自然」の世界と「人間」(文明)の世界の共存と対立関係である。

     これは、今日の社会が形成されるまでに、当然に経なければならなかった歴史の一つの「段階」であったともいえる。それが、戦国時代の遠江・引佐地方において、「次郎法師」が生きた時代に顕著に現れたのだ。

     駿河国の国府であり、今川氏の本拠地である駿府は「文明」の象徴であり、井伊氏の治める引佐は「自然」の世界である。両者の間を行き来する主人公・直虎(次郎法師)は、まさにその境界を生きた人物といえるだろう。

     大河ドラマ「おんな城主 直虎」が、ジブリ的な印象を私たちに与えるのは、偶然でもあり、また当然とも言えるのだ。

     これからドラマは、「直虎」が後見する虎松こと井伊直政(菅田将暉)による井伊家再興の時代に入っていく。直政は徳川四天王の一人に数えられた名将であった。「泰平の世」につながる新しい時代がやってくる。不安と希望の渦巻くこの時代を、ミステリアスな戦国の姫が、どのように生きていくのか、今後の展開に目が離せない。

    プロフィル
    夏目 琢史(なつめ・たくみ)
     1985年、浜松市生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了、博士(社会学)。徳川記念財団特別研究員、井の国歴史懇話会顧問。専門は日本史。一橋大学付属図書館助教を経て、2017年4月から国士舘大文学部史学地理学科講師。主な著書に『アジールの日本史』『近世の地方寺院と地域社会――遠州井伊谷龍潭寺を中心に』『文明・自然・アジール』(いずれも同成社)、『井伊直虎 女領主・山の民・悪党』(講談社現代新書)。

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    2017年04月29日 08時29分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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