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    「連れ去られたら…」木造船漂着、今年も相次ぐ

    • 昨年11月23日、北朝鮮から来た木造船が漂着した「本荘マリーナ」周辺を巡回するパトカー(20日、秋田県由利本荘市石脇で)
      昨年11月23日、北朝鮮から来た木造船が漂着した「本荘マリーナ」周辺を巡回するパトカー(20日、秋田県由利本荘市石脇で)

     秋田県由利本荘市に木造船が漂着し、「北朝鮮から来た」と話す男性8人が保護されてから、きょう23日で1年となる。今年も日本海沿岸の各地で北朝鮮籍とみられる不審な木造船の漂流・漂着が120件以上相次ぎ、県内は過去最多に迫る13件(20日正午現在)が確認されている。海岸近くの住民らの間では「上陸した人に危害を加えられるのでは」と不安がにじむ。漂流船と衝突すれば、海上で遭難する危険もあり、漁業者は早期撤去を求めている。

    ◆黒い木片に緊張

     「生きた人が漂着するとは思いもしなかった」。昨年11月23日深夜に不審な木造船が漂着した由利本荘市石脇の「本荘マリーナ」の近くに住む30歳代女性は当時を振り返り、表情をこわばらせた。

     今月19日にも付近の砂浜に木造船と特徴が似た船の一部とみられる黒塗りの木片が打ち上げられていた。乗組員が見つかったケースはないが、「うちには幼い娘が2人いる。誰かが上陸して、連れ去られたらどうしよう……」と、女性は不安を隠さない。1年前のあの出来事以来、水平線のかなたからやってくる漂着物が確認されるたびに、住民らの間に緊張が走るようになった。

     由利本荘市に上陸した男性らは言葉が分からないにもかかわらず民家の呼び鈴を押し、住民らを震撼しんかんさせた。真夜中の“不意打ち”に、ある県警幹部は「前代未聞だった」と明かした。県警では当時、北朝鮮側が住民の前に姿を現した男性らを“おとり”にして、工作員を上陸させた可能性もあるとみて、その形跡がないか警戒にあたった。男性らが何らかの感染症を拡散させる危険性についても疑った。

     この教訓を踏まえ、県警は沿岸警備を強化した。機動隊と、秋田臨港、能代、男鹿、由利本荘、にかほなど沿岸7署でパトロール態勢を強化し、漂着物や不審者に目を光らせている。

    ◆違法操業、北海道沖に

     海上保安庁によると、全国の日本海沿岸地域では1月以降、北朝鮮籍とみられる不審な木造船の漂流・漂着が121件(20日正午現在)と相次ぎ、2013年の統計開始以来、最多だった昨年1年間(104件)を大きく上回っている。乗組員が保護されたケースはないが、このうち5件では、12人の遺体が収容されている。

     水産庁によると、北朝鮮漁船が違法操業を行うエリアは今年、昨年の能登半島沖の「大和やまとたい」から、北海道西方海域に移っている。

     こうした影響からか、北海道内への漂流・漂着は51件と、昨年1年間(6件)の8・5倍に急増。本県でも13件と、過去最多の昨年1年間(14件)に迫っている。海上保安庁は、この夏から秋にかけて大型の台風の発生が相次ぎ、違法操業中に暴風や高波によって転覆した木造船や、大破した船体の一部などが、海流に乗って流れ着いているとみている。

    ◆漂流船事故の危険

     漁場の海域を漂う無人の木造船は、操業の妨げになるだけでなく、海難事故を招く危険性があり、漁業者の脅威となっている。

     秋田海上保安部は県内各地の漁協を通じて「漂流木造船情報」を出し、漁業者に注意を呼びかけている。ただ、操業中に気付かず衝突する恐れがある。ハタハタ漁やタラ漁を営む由利本荘市の20歳代男性は「うちの漁船のレーダーに木造船や木片は映らない。ぶつかれば船が傷つき、網にかかれば切れて仕事にならなくなる」と困惑する。

     県漁協北部総括支所(八峰町)は「漂流船は、船体の大部分が海中に沈んでいるケースが多い」と指摘。海がしければ、漂流する木造船が波間に隠れたような状態になるため、目視で確認することは一層困難になり、衝突すれば、最悪の場合、沈没する危険もあるという。

     漁業関係者の間では「事故につながる前に、漂流する木造船を見つけ次第、回収、撤去してもらいたい」との切実な声が上がっている。(杉本和真、山路草太)

    2018年11月23日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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