塀の中のおばあさん(1)薬飲んだら「らりるれろ」

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夕食を食べた後、刑務官から手渡された薬を口に運ぶ高齢の受刑者。今では珍しくなった開放型の相部屋だ=岐阜県笠松町の笠松刑務所で、山岸直子撮影(写真は一部加工しています)
夕食を食べた後、刑務官から手渡された薬を口に運ぶ高齢の受刑者。今では珍しくなった開放型の相部屋だ=岐阜県笠松町の笠松刑務所で、山岸直子撮影(写真は一部加工しています)

 「…」「もっとはっきり」「らりるれろ」

 うなずく刑務官に礼を言う受刑者。隣の受刑者が、同じように刑務官から薬を受け取る。

 錠剤や粉薬を舌の上に乗せてそこにあることを示し、水と一緒にのみ込んだ後、何もなくなった舌を再び刑務官に見せる。最後に言う言葉が「らりるれろ」だ。

 「こうした言葉を言わせるのはいかがか、各自の称呼番号で十分ではないかという議論もありました。でもそれだと薬を確実に飲んだかわからない。舌の裏まで確認できる『らりるれろ』には一定の合理性がある。薬をため込んで人にあげたり、大量に飲んだりする事案を防ぐためです」と細川隆夫所長が説明する。

 ここは岐阜県笠松町にある笠松刑務所。全国に11ある女子刑務所の一つだ。開所は1948年。古い刑務所らしく、部屋の扉に鍵がなく、共同トイレや洗面所に出たり入ったりできる「開放型」と呼ばれる棟があるのが特徴だ。

 「女性は暴動を起こさないから家庭的な環境で収容した方がよいと、昔は考えられていたようです。でも警備する方は大変。だから新しい刑務所は、外から鍵がかかる閉鎖型ですね」。この道30年超のベテラン、竹内久美子調査官が言う。

 全国で受刑者が減る中、増加ぶりが際立つのが65歳以上の女性だ。ここ笠松でも高齢者の割合が増え、今や2割。入所者約370人中、最高齢は87歳だ。

受刑者が暮らす場所は「寮」、作業をする場所は「工場」と呼ばれる。寮から工場に向かう受刑者たち。手押し車の姿も=岐阜県笠松町の笠松刑務所で、山岸直子撮影(写真は一部加工しています)
受刑者が暮らす場所は「寮」、作業をする場所は「工場」と呼ばれる。寮から工場に向かう受刑者たち。手押し車の姿も=岐阜県笠松町の笠松刑務所で、山岸直子撮影(写真は一部加工しています)

 年を取ると病気がちになり、睡眠薬、軟便剤、降圧剤など多くの薬が必要になる。その結果、「らりるれろ」が朝昼晩、あちこちで聞かれることになる。

 人生の終盤を迎えた女性たちが厳しい寒さや暑さにさらされるこの場所に何度も来てしまうのはなぜなのか。それが知りたくて、名鉄名古屋本線笠松駅から歩いて15分ほどの塀の中に足を運んだ。

メモ

 先月公表された2018年版犯罪白書によると、17年に刑務所に入った受刑者は1万9336人。2年連続で戦後最少を更新した。反対に増加ぶりが目立つのが高齢の女性だ。女性受刑者全体に占める割合は19.7%で、統計がある1984年以降、最高を記録した。

刑務所? 今回で3回目です

インタビューの時、拝むように両手を合わせる高齢の女性受刑者(岐阜県笠松町の笠松刑務所で、写真は一部加工しています)
インタビューの時、拝むように両手を合わせる高齢の女性受刑者(岐阜県笠松町の笠松刑務所で、写真は一部加工しています)

 女性の犯罪で最も多いのが万引きなどの窃盗だ。女性受刑者全体の罪名の約半数を占める。高齢女性では9割近く、しかも何度も罪を繰り返す人が多い。その一人、A子さん(80歳代)に話を聞いた。

 ここに来て1年半ほどになります。野菜や総菜を盗みました。最初に万引きしたのは70歳頃。お店の注意で済んだのがだんだんエスカレートして。次に捕まった時は保護観察となり、その次は執行猶予に。とうとう刑務所に入るようになってしまいました。刑務所? 今回で3回目です。

 なぜ万引きをするのか? 年金もあるし、子どもたちとの関係も良いし、外から見れば恵まれているのに何でかね。ここに入ってからずーっと考えていたんだけど、やっぱりさみしさ、孤独が中心にあったんじゃないかと思う。

 主人が60歳近くで突然、亡くなったんです。山登りなどいつも一緒だった。それと、息子がお嫁さんをもらったんで、邪魔したら悪いと遠のいた。自分をよく見せたかったんでしょうね。それが悪の道に走らせたようにも思う。今回の盗みは妹の急死が大きい。とても仲が良かったので。

 節約したい、お金を使うのがもったいないという気持ちもあった気がします。お父さんがいなくなり、老後を思うと少しでも節約したいと。

 子どもたちと一時、関係が悪くなったけど、今は罪を償って戻ってくるのを待つと言ってくれてます。窃盗は病気のせいじゃないかと言って。

 最近、バッジの色がピンクになったんです。

 バッジは全5色。行状が良いと色が変わり、面会や手紙を出せる回数が増える。

 一生懸命まじめに生きていれば、見ていてくれるんだと思いました。だから、世の中に出てもコツコツまじめに生きなければと強く反省しました。今はここでの作業も頑張ってやっています。

続く

 (文・猪熊律子、写真・山岸直子)

無断転載禁止
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