「消費税率10%」後の展望が必要だ(上)

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 急速に進む少子高齢化の影響で社会保障費が急増し、2040年度には現在の1・6倍に当たる190兆円になるとの推計を政府が発表した。安倍首相は来年10月に消費税率を現在の8%から10%に引き上げる方針だが、それだけでは、増え続ける社会保障費を賄うことはできない。財源確保策をはじめ、医療、介護、年金制度を将来にわたって安定させるために、どのような対策に取り組むべきかについて検討を始める必要がある。

社会保障給付 2040年度に190兆円

安倍首相は2019年10月、消費税率を10%に引き上げる方針だが…(写真はイメージ)
安倍首相は2019年10月、消費税率を10%に引き上げる方針だが…(写真はイメージ)

 65歳以上の人が人口全体に占める割合を示す高齢化率は、現在28・2%に上り、世界で最も高い。高齢化率はさらに上昇して2040年には35・3%に達する。この頃、高齢者人口も約3900万人とピークとなる見込みだ。医療、介護、年金など高齢化に伴う社会保障の負担が最も重くなる時期を迎える。

 政府が今年5月の経済財政諮問会議で、初めて公表した40年度の社会保障給付費の推計によると、給付の総額は190兆円になり、121兆円だった18年度の約1・6倍に増える。社会保障費が国内総生産(GDP)に占める割合は、18年度の21・5%から、24%に上昇する。

 分野別で見ると、最も増加率が大きいのは介護で、18年度の10・7兆円から40年度には25・8兆円と2・4倍に増加する。GDPに占める割合では1・9%から3・3%に増える。医療は68・5兆円と1・7倍になり、GDP比では現在の7・0%から8・7%に上昇する。

 一方、年金は金額では73・2兆円と現在の1・3倍になるものの、GDP比は10・1%から9・3%に低下する。これは、人口減少などに合わせて年金の給付水準を自動的に抑えるマクロ経済スライドという仕組みによって、年金給付額の伸びが経済成長の範囲内に抑えられるためだ。

 また、少子化対策の子ども・子育て給付は、わずかな伸びにとどまる。

 政府は従来、将来の社会保障給付費について、25年度までの推計値を発表していたが、それより先の見通しは示していなかった。高齢者人口が最多となる時期の社会保障給付の全体像が明らかになったことで、課題や取るべき対策も浮かび上がってくる。

フランス、北欧ほどには支出増えず

 政策研究機関の公益財団法人・NIRA総合研究開発機構も今年3月、政府の発表に先立ち、社会保障に関する独自の将来推計を公表した。それによると、41年度の社会保障給付費は190・7兆円となり、政府推計とほぼ同じ水準になる見通しだ。GDP比では、現在の21・5%から24・5%へ上昇する。

 この推計に携わった小塩隆士・一橋大学経済研究所教授は「社会保障費の伸びは、意外に落ち着いている印象を受ける。確かに高齢化の影響で給付は増えるが、雪だるま式に膨らみ破綻するという悲惨な将来展望にはなっていない」と話す。

 実際、社会保障給付などの社会支出がGDPに占める割合は、既にスウェーデンでは27・8%に達し、フランスでは30%を超えている。日本は40年でも、そこまで高い水準にはならない。どの国も経験したことのないほど重い社会保障負担を強いられる国になるわけではないのだ。

 とはいえ、給付費が増大するぶん、費用負担が増えることも避けられない。政府の推計によると、医療保険では、中小企業の従業員が加入する協会けんぽの保険料率(従業員の報酬額に対する保険料の比率)が18年度の10%から40年度は11・8%に、大企業の組合健保でも9・2%から11%程度にそれぞれ上昇する。介護保険料の伸びも大きい。

消費税率4%分の上昇

 保険料ばかりでなく、医療や介護への公費(税金)負担も大きくなる。社会保障給付の公費負担がGDPに占める割合は、現在の8・3%から40年度に10・2%へと、約2ポイント上昇する。

 これを消費税で賄うには、どれくらいの税率の引き上げが必要か、政府は公表していない。だが、GDPの1%(5兆円強)は消費税収の約2%分に相当するという関係がある。これを当てはめると、GDP比で公費負担2%分の上昇は、消費税率では約4%分に相当する。NIRA総研も同様の推計を示している。今後20年余の給付費の伸びを賄うのに必要な消費税率の引き上げ幅は4%程度、ということになる。

 もっとも、消費税率を4%引き上げれば問題がすべて解決するとは言えない。現在でも社会保障の財源が足りず、毎年20兆円程度が国や地方自治体の新たな債務(借金)になっているからだ。消費税率に換算すると8%分が不足し、将来世代へのツケ回しになっている。

 そうすると、40年の社会保障財源を安定的に確保するには、消費税率はどこまで引き上げる必要があるだろうか。

 財政制度等審議会委員の土居丈朗・慶応大学経済学部教授は、次のように説明する。消費税率で4%分、社会保障給付の公費負担が増えるなら、消費税率を19年5月に予定されている10%に引き上げたうえ、さらに4%上乗せした14%程度にする必要がある。だが、それだけでは社会保障費によって国の借金が増え続ける構造は変わらず、財政破綻の恐れが高まるので、借金が増えないようにしなくてはならない。現在は国債の金利が低く、利払いが少なくて済んでいるが、将来の金利上昇に対応するには、基礎的財政収支を均衡させる(政策経費を借金に頼らず税収などで賄うこと)だけでなく、さらにGDP比で2%ほど黒字にする必要があるという。これは、消費税率では4%に相当する。この4%と、社会保障給付が増える分の4%を合わせた8%が、引き上げるべき税率になる。消費税率を10%に引き上げた後、さらに8%上げて18%にすれば、社会保障制度は安定する計算になる。

 欧州では消費税率が既に20~25%に達している国が多く、日本でも実現不可能な水準とは言えない。

 土居教授は、この増税は2030年頃までには実現させるべきだという。増税が先延ばしされるほど、将来の財政への悪影響が大きくなるからだ。財政制度等審議会の試算によると、基礎的財政収支の黒字化が1年遅れるごとに、毎年1兆円ずつ収支が悪化するという。この分が将来へのツケになり、最終的に必要な税率も高くなる。

 なお、政府推計、NIRA総研の推計値は、ともに現在の経済成長率の動向が続くと仮定した「ベースライン」のケースだが、より高い成長率を想定した推計も行っている。その「成長実現ケース」の社会保障給付費の対GDP比率は、政府推計で23・2%、NIRA推計でも23・6%となり、いずれもベースラインケースを1%足らず下回るだけで大きな違いはない。経済が成長すれば、賃金や物価も上がって医療や介護のサービスの価格が上昇するためだ。これは、経済成長だけでは、増大する社会保障給付を賄えないことを示している。安倍首相は「経済再生なくして財政再建なし」と唱えているが、経済成長が実現しても消費税率の引き上げは不可避と言える。

消費税と歴代政権

 ところが、日本では消費増税は極めてハードルが高い。それは、過去の国政選挙で、消費税の導入や増税を掲げた内閣がことごとく倒れた経緯を見ても明らかだ。

 消費税の構想を初めて打ち出したのは、1978年に発足した自民党・大平政権だった。一般消費税と呼ばれたこの構想は、翌年の衆院選で野党や有権者から強い反発を受け、大平首相は選挙中に撤回したものの、自民党は大敗を喫した。

 89年4月に税率3%の消費税を導入した竹下首相は、その直後、リクルート事件のあおりもあって退陣した。同年7月の参院選で自民党は大敗している。94年に村山内閣が税率3%から5%への引き上げを決めたのを受け、97年に引き上げを実施した橋本内閣も翌年の参院選で敗れ、退陣した。これらの政権が、消費税の導入・引き上げを決断し、現在の社会保障制度の財政的な礎を築いた功績は大きい。だが、選挙では勝てなかった。

 2012年に税率10%への引き上げを決めた民主党の野田内閣も同様だ。野田内閣はこの年6月、野党だった自民、公明両党とともに「3党合意」をまとめ、「社会保障と税の一体改革」関連法を成立させた。15年10月までに消費税率を当時の5%から10%に引き上げ、社会保障の財源とする内容だった。しかし、12年末の衆院選で大敗し、下野した。

 当時首相だった野田佳彦衆院議員(無所属の会)は「ギリシャの信用不安をきっかけに、各国が真剣に財政再建に取り組んでいた。誰が見ても取り組まなくてはならないテーマで、日本だけが先送りを続けることはできなかった。苦しいことでも自分の在任中に成し遂げよう、と決意して首相になった。厳しい選挙になるのは分かっていたが、(政権は)長きをもって尊しとせず、と考えた」と振り返る。

 一方、「任期中は消費税を上げない」と明言して5年半の長期政権を築いたのが小泉首相だった。小泉氏は公共事業や社会保障など歳出削減で財政再建を図ったが、政府の債務は増え続けた。小泉政権(01~06年)では経済が比較的安定し、消費税を引き上げる好機だっただけに、増税の封印は、その後の財政運営に禍根を残した。

「消費税率10%」後の展望が必要だ(下)につづく

●参考資料

NIRA総合研究開発機構「人口変動が突きつける日本の将来 社会保障は誰が負担するのか」NIRAオピニオンペーパー(2018年3月)

内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」経済財政諮問会議(18年5月)

プロフィル
田中 秀一( たなか・ひでかず
 読売新聞調査研究本部主任研究員。専門分野は医療、社会保障。医療情報部(現医療部)長、社会保障部長、論説委員、編集局デスクを経て現職。長期連載「医療ルネサンス」を18年担当し、現代医療の光と陰に目を凝らしてきた。「納得の医療」「格差の是正」を考えながら取材を重ねている。

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34450 0 読売クオータリー 2018/07/30 18:02:00 2018/07/30 18:02:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180730-OYT8I50060-T.jpg?type=thumbnail

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