長期政権のレガシーを残せるか(下)

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(長期政権のレガシーを残せるか(上)からつづく)

内政も課題残る

 内政面では、アベノミクスの成果が焦点になる。

 大胆な金融緩和と機動的な財政出動、民間活力を引き出す成長戦略の「3本の矢」により、円安・株高や企業業績、雇用の改善などで一定の結果を残したことは、安倍首相が総裁選を通じてアピールした通りといえよう。

 ただ、持続的な経済成長への道筋は今なお不透明で、デフレ脱却が確実になったとは言いがたい。同時に国と地方を合わせた長期債務(借金)の残高は、約1100兆円に達し、増え続けている。2019年10月には消費税率の10%への引き上げが予定されている。金融財政運営の舵取りを誤れば、再び日本経済はデフレ時代に舞い戻ると懸念する経済学者もいる。

 小泉政権は、「首相在任中は消費税を上げない」と消費税論議を封印し続け、財政再建が進まなかったことで批判を浴びた。安倍政権は、消費税率を引き上げると同時に、日本経済をデフレから脱却させることができるだろうか。アベノミクスは歴史的評価を受けるか否か、分水嶺にさしかかっていると言える。

 日本社会は今後、急激な人口減少局面を迎える。2040年には、団塊ジュニア世代が老後を迎え、高齢者人口は4000万人近くにまで増加し、総人口の3分の1を超える。同時に、現役世代の減少は加速する。社会保障費の対国内総生産(GDP)比も高まっていく。国民の不安を解消するためにも、費用負担の議論と働き方改革を進め、人口減少を食い止めるため出生率向上に向けて早急に手を打っていく必要がある。

 安倍政権が今後向き合う少子高齢化と財政悪化は、過去のどの長期政権も経験しなかった深刻なものだ。東京五輪・パラリンピックがもたらす一時的な好景気や観光客の増加に幻惑されることなく、速やかに少子化・人口減対策を講じることが求められよう。

 このように安倍政権の3期目は、まさに課題山積といえる。だが、過去の長期政権を見ると、それは必ずしも悪いこととは言えない。課題解決に向けて強いリーダーシップを発揮できれば求心力を維持できるだけに、むしろ前向きにとらえるべきではないだろうか。

後継者育成がカギ

最後の佐藤内閣閣議。左から佐藤栄作首相、田中角栄通産相、福田赳夫外相(1972年、首相官邸で)
最後の佐藤内閣閣議。左から佐藤栄作首相、田中角栄通産相、福田赳夫外相(1972年、首相官邸で)

 もちろん、大きな政策課題が解決できるかどうかは時代環境に左右されるし、一内閣だけで焦っても成し遂げられないものの方が多い。

 長期政権は、強いリーダーシップの下で政治を牽引し続けてきただけにワンマン化し、政権終盤で反対勢力の激しい抵抗に遭うことも多く、その結果、意中でない人物に政権をバトンタッチせざるを得なくなることもある。これに対し、時間をかけて育成した後継者に首相の座を譲ることで、次期政権が残された課題に取り組み、解決できたケースもある。

 前者が吉田、佐藤の両政権であり、後者が中曽根、小泉の両政権であった。

 吉田政権は、第3次内閣で講和条約、日米安保条約に調印し、日本が独立を果たすという歴史的な偉業を達成した後も、5次まで続いた。その間、鳩山一郎、三木武吉、河野一郎といった有力な政治家と激しく対立し、鳩山派に対抗するため「抜き打ち解散」(1952年)に打って出るなどしたが、最後には引きずり下ろされるような形で内閣総辞職に追い込まれ、鳩山一郎政権が誕生する。

 佐藤政権は、発足後間もなくライバルの河野一郎氏が65年に急死したことなどもあり政権基盤が安定した。「三角大福中」と呼ばれる有力な後継者たちがひしめく中で「人事の佐藤」と呼ばれる巧みな人材登用で政権運営に当たった。同じ東大・官僚出身で自らの政策を引き継ぐことが期待された福田赳夫氏に政権を禅譲することを希望した。だが、佐藤首相が70年の自民党総裁選で福田氏に譲らずに出馬、4選を果たす中で、党人政治家・田中角栄氏が実力を蓄え、福田氏との間で「角福戦争」を展開する。佐藤後継を選ぶ72年の自民党総裁選で福田氏が田中氏に敗れて田中内閣が誕生したことで、佐藤氏の政界における影響力は急落した。

自民党の第12代総裁に竹下登氏(幹事長)を決定し、手を挙げて応える安倍晋太郎氏、中曽根首相(前総裁)、竹下新総裁、宮沢喜一蔵相(左から)。(1987年10月31日、日比谷公会堂で)
自民党の第12代総裁に竹下登氏(幹事長)を決定し、手を挙げて応える安倍晋太郎氏、中曽根首相(前総裁)、竹下新総裁、宮沢喜一蔵相(左から)。(1987年10月31日、日比谷公会堂で)

 これに対し、中曽根首相は、竹下登、安倍晋太郎、宮沢喜一のニューリーダー3人を競わせ、最終的に首相の裁定で竹下氏を後継に指名する形となり、竹下首相は、中曽根氏が悲願としていた消費税導入を実現する。小泉政権も、「麻垣康三」と呼ばれた有力後継者のうち、官房副長官、自民党幹事長、官房長官を歴任させて育成した安倍氏に政権を引き継ぐことに成功している。

 中曽根、小泉両氏とも、政権の最後まで求心力を失わなかった重要なファクターとしては、政権末期の衆院解散・総選挙での大勝に加え、後継者を育成し、その人事への影響力を有していたことがあったと言えるのではないか。

 なお、退陣時の年齢を見ると、吉田、佐藤両氏が70歳を超えて政権にとどまり続けたのに対し、中曽根、小泉両氏は60歳代で後進に道を譲っている。現在64歳の安倍氏も、残り3年の任期を務めたとしても60歳代に収まることになる。

結 び

 長期政権の最後の仕上げとなる3年間で、首相はレガシーを残すことができるだろうか。菅官房長官は「政権は、どれだけ長くやったかでなく、何をやったかが一番大事だ」と強調しているが、果たして安倍政権は、長きがゆえに記憶される政権と言われてしまうのか、長かったことよりもその実績ゆえに記憶される政権となっていくのか、首相にとっては正念場の3年となる。

 安倍政権が現在抱える課題には、少子高齢化など、過去の長期政権が取り組んだ政策よりも構造的に解決が困難で、任期終了の2021年までに決着しない可能性が高いものも多い。だからこそ、自らの政権運営を引き継ぐことができる力量のある後継者たちを育成し、総裁任期満了が近づくにつれ、最後は並走するような形でバトンタッチするのが有終の美を飾る道なのではないか。

 終盤の政権運営を円滑に進める上でも、日本が直面する課題に対処できる力を持った後継者を育てることは、重要課題の一つとなってくるに違いない。

参考文献

宇治敏彦編(2001)『首相列伝 伊藤博文から小泉純一郎まで』(東京書籍)

岡本文夫(1972)『佐藤政権 八年にわたる長期政権の記録』(白馬出版)

北岡伸一(2008)『自民党-政権党の38年』中公新書(中央公論新社)

楠田實編著(1983)『佐藤政権・二七九七日〈上〉〈下〉』(行政問題研究所)

塩澤実信(1989)『人間 吉田茂』(光人社)

長谷川和年(2014)『首相秘書官が語る中曽根外交の舞台裏』(朝日新聞出版)

林茂、辻清明編(1981)『日本内閣史録5、6』(第一法規出版)

升味準之輔(1985)『現代政治 1955年以後 上』(東京大学出版会)

御厨貴編(2013)『増補新版 歴代首相物語』(新書館)

読売新聞昭和時代プロジェクト(2013)『昭和時代 戦後転換期』(中央公論新社)

読売新聞昭和時代プロジェクト(2015)『昭和時代 敗戦・占領・独立』(中央公論新社)

読売新聞昭和時代プロジェクト(2016)『昭和時代 一九八〇年代』(中央公論新社)

読売新聞政治部(2005)『自民党を壊した男 小泉政権二五〇〇日の真実』(新潮社)

プロフィル
舟槻 格致( ふなつき・かくち
 読売新聞調査研究本部主任研究員。専門分野は憲法と政治。憲法を中心とした政治の動きを、政治部で担当。首相官邸のほか与野党、国会、外務省、法務省などを取材し、憲法、衆院選、統括担当の次長を経て現職。著書『政治はどう動くか』(書肆侃侃房)、共著『基礎からわかる 憲法改正論争』(中公新書ラクレ)など。

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46725 0 読売クオータリー 2018/10/31 12:01:00 2018/10/31 12:01:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181031-OYT8I50050-T.jpg?type=thumbnail

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