皇室の経済学

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 新天皇の即位に伴う皇位継承が本格化している。一連の行事の費用は、主要な宮中儀式である「大嘗祭(だいじょうさい)」の規模を縮小するなど経費節減に努めるものの、人件費や原材料費の高騰により「平成の代替わり」に比べて3割程度膨らむ見通しだ。改元に合わせて、皇室予算の仕組みをひもときながら、改元がもたらす経済波及効果など、皇室のお金にまつわる論点を考察したい。

戦前は世界有数の資産家

都心の一等地に広大な空間が広がる皇居周辺(本社ヘリから)
都心の一等地に広大な空間が広がる皇居周辺(本社ヘリから)

 東京駅丸の内口から一直線に延びる行幸通り。新しく日本に赴任した外国の大使が信任状を携え、美しい装飾がほどこされた儀装馬車に乗って、ゆっくりと広大な皇居に吸い込まれていく。

 都心の超一等地に立地する皇居の敷地は、約115万平方メートルと広大で、東京ドーム約25個分に相当する。財務省の国有財産に関する資料によると、皇居の土地の価格は6000億円(簿価ベース)とされているが、国土交通省がこのほど発表した2019年1月1日の公示地価(東京都千代田区丸の内、1平方メートル=3680万円)を参考に推計すると、時価ベースで40兆円を超えるとみられる。

 皇室関連施設は皇居だけではない。東宮御所などが立つ赤坂御用地(同港区、面積約51万平方メートル)や京都御所(京都市上京区、同約11万平方メートル)はじめ、那須(栃木県那須町)や葉山(神奈川県葉山町)の御用邸など各地にある。これらの不動産のほか、皇室由来の国宝級の美術・工芸品は、いくら値が付くか分からない。

 初代天皇とされる神武天皇から2600年以上、125代にわたり連綿と受け継がれてきた天皇家は戦前、世界有数の資産家だった。江戸時代からの皇室領に加え、戊辰戦争や明治維新を経て、徳川幕府や諸藩から没収した土地などを皇室御料(財産)に組み入れた結果、資産は大きく膨らみ、三井、三菱などの財閥資産の合計額をはるかに上回る財力を誇った。

 近代企業経営史を研究している吉田祐二氏は、著書「天皇財閥 皇室による経済支配の構造」の中で、皇室が財を形成していく過程を次のように記す。

 「帝国議会設置が決まった明治17(1884)年から、大日本帝国憲法発布までの同23年の間に、皇室財産は着々と形成されていった。その第一弾は明治17年、政府が保有していた日本銀行、横浜正金銀行株の移管、第二弾は佐渡、生野両鉱山の移管(明治21年)、最後に、国有山林原野の皇室財産への編入(明治23年)であった。これにより皇室財産の原型ができ上がった」

 大日本帝国憲法の下で天皇は、「神聖ニシテ侵スヘカラス」(3条)絶対的な存在だった。天皇と皇族に関する様々な事項を規定していた旧皇室典範は、最高法規である憲法と対等の法典とされた。予算の上でも皇室予算は国家予算と区別され、独立していた。このため、国会の議決が必要な国家予算に代わって、時の政権が「隠し資金」として利用していたとの疑念がささやかれていた。

GHQによる「皇室財産」の解体

 こうした天皇一家に権力と富が集中する国家体制に危うさを感じていた連合国軍総司令部(GHQ)は戦後、天皇家の財産に重税をかけるなどして、事実上没収した。同時に財閥の解体を進めた。

 資産が一極集中することを防ぎ、政商のような特定の者と皇室が経済的に強く結びつくことを懸念した措置だった。その際に、皇室が手放したのが、東京都新宿区と渋谷区にまたがる新宿御苑や現在の国有林などで、天皇家に残ったのは金融資産など約1500万円(当時)だったという。皇室予算が減らされたことと合わせて、昭和天皇と血縁が遠い11宮家51人が皇籍を離れ、臣民籍に降下した。

 天皇制は、大日本帝国憲法の下で神格化された位置づけから、戦後に制定された日本国憲法によって国家と国民統合の象徴へと大きく転換した。同時に皇室の財産も、憲法で国会や政府に厳しく管理されることになった。

 憲法8条で「皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない」という規定を明記し、さらに88条においても「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない」と定めた。この二つの規定を受けて、1947年に「皇室経済法」が制定され、皇室は一部の例外を除き、私有財産を持たなくなった。

細かい規定がある皇室予算

 その皇室経済法によると、皇室費は(1)天皇、皇后両陛下と皇太子ご一家の私的な費用である「内廷費」(2)皇族としての品位を保持するために秋篠宮ご一家をはじめとした宮家に支出される「皇族費」(3)宮内庁が管理する公金である「宮廷費」―の3種類に大きく分けられる。

 内廷費は、天皇ご一家などの食費、被服費、私的な交際費などのいわばプライベートマネーで、宮中祭祀にかかる人件費などを含む。

 法律が制定された47年当初は733万円余りだったが、経済発展に合わせて、徐々に引き上げられてきた。財務省によると、物価上昇などに応じて増額されるのが慣例となっており、オイルショックが起きた1970年代半ばには前年度比20%を超える水準で引き上げられた。

 2019年度の内廷費は3億2400万円で、1996年度から据え置かれている。平成に入ってデフレが続いたことが影響しているようだ。ちなみに天皇、皇后両陛下が退位後に就かれる上皇、上皇后は、新しく即位される天皇ご一家と生計を同じくする「内廷」と位置づけられ、内廷費で賄われる。

秋篠宮さまは3倍増に

 秋篠宮ご一家などに支給される皇族費は、19年度に2億6400万円を計上している。18年度は高円宮絢子(あやこ)さまのご結婚に伴う一時金の支給があったため、19年度は前年度比で1億円の減額となった。

 皇族費の年額は、皇族お一人当たりの定額3050万円を基準に算出される。独立の生計を営む皇族(親王)が満額、妃殿下(親王妃)が定額の2分の1相当、独立の生計を営まない成年の親王・内親王が10分の3、未成年の場合は10分の1相当などと細かく規定されている。また、親王が逝去した場合、皇室経済会議(議長は首相)で親王妃が「当主」と認定されれば、満額支給される。この式を当てはめると、秋篠宮ご一家の皇族費はこれまで推定6710万円(内訳=秋篠宮さま3050万円、紀子さま1525万円、眞子さま、佳子さま各915万円、悠仁さま305万円)だった。そして、5月に秋篠宮さまが皇位継承順位1位の「皇嗣(こうし)」に就かれると、秋篠宮さまご自身への支給額は定額の3倍に増額され、ご一家の皇族費は1億2810万円となる。

 一方、宮廷費は、国賓の接遇や儀式、国内外への訪問など皇室の公務に必要な活動費に充てられる。皇室の施設のメンテナンスなどに要する費用も含まれ、年々増加してきた。

 皇室費とは別に、皇族に仕える宮内庁職員らの人件費や事務費を賄うのが宮内庁費で、19年度は123億2700万円を計上した。今年は新たに、退位後の天皇、皇后両陛下を支える上皇職、秋篠宮さまを補佐する皇嗣職が新設されるため、職員36人を増員、侍従職を含め計191人の職員が支える。19年度政府予算では、皇室費と宮内庁費などの関連予算を合わせて、約240億6400万円が計上されている。

皇位継承に166億円

 皇位継承に伴う式典は4月30日の退位の礼からスタートし、即位した天皇が五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈る11月の大嘗祭まで続く。関係費の総額は、2018~20年度の3年間の合計で166億円余りに達する見通しだ。関係する式典のうち、即位の礼の中心的な儀式である「即位礼正殿の儀」やパレード「祝賀御列」などは、天皇の国事行為に当たる行事に位置づけられ、内閣府の予算として36億円が計上された。

 関係費用の中で最も多いのが、外国の賓客の滞在関係費(50億8000万円)だ。昭和から平成の代替わりの時の9億8100万円に比べ、5倍以上への増額となる。招待する国を前回の165か国から195か国に30か国増やすことに加え、要人が宿泊する都内の高級ホテルの宿泊費が高騰している点も影響しているようだ。背景には、外国人観光客の増加による需要の増大や、20年夏の東京五輪・パラリンピックを前に多くのホテルが改装・建て替えを進めているという事情もある。

 祝賀パレードで使用するオープンカー(トヨタ・センチュリー)の取得費用として8000万円、「正殿の儀」で設置される大型のテレビモニターに1億4000万円をそれぞれ確保した。

 一方、大嘗祭は、前回と同様に国事行為とはせず皇室行事として開催される。

 その関連予算は27億1900万円に上り、中心行事の「大嘗宮の儀」を執り行う「大嘗宮」の建立費用に19億円を充てる。儀式の規模を前回の8割程度に縮小したり、主要三殿の屋根材をかやぶきから安価な板ぶきに変更したりして経費を抑える取り組みを行うものの、人件費や建材費の高騰で前回より4億7000万円増えた。

 宗教の色合いのある大嘗祭を巡っては、秋篠宮さまが昨年11月の誕生日に先立つ記者会見で、憲法が定める政教分離の原則を念頭に、公費を充てる政府の方針に疑義を示した上で、「(私費の)内廷会計で行うべきだ」との見解を示される異例の事態となった。

 政治的な発言とも受け止められかねない内容だが、「身の丈に合った儀式で行うのが本来の姿」とも述べられており、質素倹約の精神を大事にする皇族のお立場を強調されたのかもしれない。

資産家の海外の王室

 日本と同様に王室を有する国々では、それぞれ独自の予算システムに支えられている。たとえば英国では、王室の私有財産が認められており、女王は歴代の国王が保有していた美術・工芸品からなる「王室コレクション」などを持つ。2011年の米フォーブス誌によると、エリザベス女王の個人資産は、5億ドル(約550億円)と推計されている。

 女王はこのほかにもロンドン市内や各地にある王室所有地の「所有者」だ。ただ、王室の判断で勝手に売却することはできないので、実質的には国有地と言ってもいい。こうした不動産から得られた賃料などの収入は、いったん国庫に入れられた後、総額の25%を2年後の王室費に充当する仕組みだ。18年度の王室費は8220万ポンド(約120億円)と定められた。

 ただ英王室も、ここ数年は人件費の高騰や所有する不動産や施設の補修費用などがかさみ、財政が逼迫(ひっぱく)しているようだ。

 エリザベス女王の倹約生活はつとに有名だ。日常的な節電はもちろんのこと、身内などへの豪華な贈り物は自粛しているとされる。

 一方で、ケタ違いの財力を見せつけたのが、世界最大の産油国のサウジアラビアのサルマン国王だ。17年に王族や閣僚、経済関係者ら1500人の随行員を従えて、46年ぶりに来日したのをご記憶の方も多いだろう。

 サルマン国王は、羽田空港に事前に持ち込んだ専用のエスカレーター式タラップで飛行機から降り立ち、出迎えに立った日本の外務省職員の度肝を抜いた。国王自身は迎賓館に宿泊したものの、同行者のために予約した都内の高級ホテルの部屋数は約1000室に上り、移動用のハイヤー数百台も確保したという。

 質素な生活を送る王室が多い中で、潤沢なオイルマネーを握るサウジの王室の豪勢なお金の使い方は、世界でも際立っているようだ。

改元の経済効果は?

出典:内閣府と総務省の資料をもとに「みずほ総合研究所」が作成した図を一部改変
出典:内閣府と総務省の資料をもとに「みずほ総合研究所」が作成した図を一部改変

 次に即位による景気への波及効果を考えたい。去りゆく平成時代を懐かしみ、前回の元号発表時に小渕恵三官房長官(当時)が掲げた「平成」の書をプリントしたクリアファイルやジグソーパズルなど元号関連グッズなどが販売され、話題を呼んでいる。皇室関連本の出版も相次ぎ、各地の百貨店では皇室の写真展や企画展が開催されている。

 政府や地方自治体は、新元号に合わせて情報システムを改修する必要に迫られている。役所が発行する証明書などが「昭和」や「平成」といった和暦で記載されているためで、印刷やソフトウェア業界にも官による「特需」が生まれることが予想される。

 昭和から平成にかけての改元では、昭和天皇のご病状や崩御に配慮して、結婚式や祝賀会などの慶事を取りやめる動きが国民の間に広がった。

 当時は、1985年のプラザ合意で急激な円高ドル安が進み、輸出産業を中心に円高不況が広がったものの、内需主導型の経済成長を促すための公共投資の拡大や金融緩和の影響でカネ余りとなり、国内経済は好景気に沸いた時期だった。特に、改元のあった89年はバブル経済の絶頂期にあり、国内総生産(GDP)の実質成長率は5%近い伸びを示した。昭和天皇のご病気に配慮する「自粛」による落ち込みは吸収され、景気の大きな流れには影響しなかった。

 今回の改元は生前退位のため、基本的に祝賀ムード一色に包まれそうだが、足元の成長は0%台にとどまり、ベースには大きな差がある。

 少子化による婚姻数の減少で、右肩下がりのブライダル業界には、2000年のミレニアム(千年紀)以来の期待が高まる。果たして業界に追い風は吹くだろうか。

 確かに2000年は、婚姻数の顕著な増加を記録した。背景としては、社会的なムードに加え、団塊ジュニアが結婚適齢期を迎えたことが大きいようだ。その後は、一段と進んだ少子化の影響もあって婚姻件数は急減した。経済産業省の「第3次産業活動指数」によると、17年の結婚式場サービスは、00年と比べて3割程度の規模まで縮小している。

 仮に、ミレニアムと同程度の婚礼特需が発生したとしても、景気を牽引(けんいん)するには力不足といわざるを得ない。

4割以上の企業が「影響」

 帝国データバンクがまとめた改元に関する企業への意識調査(回答企業数9701社)によると、改元が企業活動に「プラスの影響がある」と回答した企業が5・3%、「マイナスの影響がある」は12・8%、「プラス・マイナス両面の影響で差し引きゼロ」が25・5%だった。これらを合わせると、4割強の企業が自社の経営に何らかの影響があると認識していることが浮かび上がった。「影響はない」は38・9%で回答の中で最も多かった。「分からない」は17・5%だった。

 「プラス」の理由(複数回答)については、「人々の気持ちの高揚(消費マインドの改善)」(13・5%)、「(休日の増加による)個人消費の拡大」(8・7%)が多かった。「マイナス」の理由は「営業日数の減少」(24・5%)、「(行政システムへの対応など)諸経費の増加」(14・6%)、「(業務量の増加など)人手不足の深刻化」(12・2%)を挙げる回答が目についた。

 業種別にみると、プラス回答が最も多かったのが「旅館・ホテル」(30・4%)で、「出版・印刷」(27・8%)、「紙類・文具・書籍卸売り」(20・2%)、「放送」(20・0%)が続いた。

 新天皇の即位に伴う10連休で、国内各地の観光地を訪れる旅行客が増えれば、地方にもその恩恵が行き渡ることになるだろう。

 旅館・ホテル業界からは「大型連休となり、改元を祝した宿泊プランを設定するなどのプラスの効果が期待できる」(栃木県の旅館・ホテル)、「観光客の増加による売り上げ増を期待したい」(山形県の肉製品製造)などの声が目立った。マイナス回答は「金融」と「電気通信」がともに27・3%と最も多く、「長期休暇の間、海外市場での取引に対応できない」(東京の投資顧問会社)などと、市場取引への悪影響を懸念する意見がみられた。これに「飲食店」(24・3%)、「医薬品・日用雑貨小売り」(23・8%)が続き、「運送・倉庫」(20・5%)は、連休前後の輸送の集中に警戒感を示した。

 みずほ総研の宮嶋貴之主任エコノミストは「高い旅行費用や混雑を避けて、10連休は日帰りや近場で過ごす人が多くなる可能性がある。お祝いムードが広がることは消費者心理にはプラスだが、持続性という点ではやや弱い感じがする。過度な期待は禁物で、改元による経済効果は限定的ではないか」と予測する。むしろ、「一連の皇位継承行事を通じて、外国人に皇室文化や日本の魅力を知ってもらい、何度も訪日してくれる“日本びいき”を増やすきっかけにつなげるようにしたい」と中長期的な効果に期待する。

 英国のコンサルティング会社の推計によると、英王室が観光やファッション、ビジネスなどの広告塔として、英国経済にもたらす有形、無形の経済的利益は、毎年10兆円に近いという。欧州連合(EU)の離脱問題で混乱する英国にとって、王室の存在感は大きい。

 一方、年間予算240億円余りの皇室の我が国への貢献度を経済価値に換算した推計はない。だが、質素倹約を心がけ、国民に寄り添ってきた平成の天皇、皇后両陛下の存在は、国内だけでなく海外でも日本を体現する「プライスレス」の価値を生み出してきたと言えるのではないだろうか。

主な参考文献・資料

芦部信喜、高見勝利(1992年)「日本立法資料全集7 皇室経済法(昭和22年)」信山社出版

園部逸夫(2016年)「皇室法概論―皇室制度の法理と運用」第一法規

広岡裕次(1998年)「皇族」読売新聞社

吉田裕二(2011年)「天皇財閥 皇室による経済支配の構造」学研、(2016年)「天皇家の経済学」洋泉社

山本雅人(2009年)「天皇陛下の全仕事」講談社現代新書

猪瀬直樹(1986年)「ミカドの肖像」小学館

宇波弘貴編著「【図説】日本の財政 平成30年版」財経詳報社

竹元正美(2017年)「皇室ってなんだ!?」扶桑社

君塚直隆(2018年)「立憲民主制の現在 日本人は『象徴天皇』を維持できるか」新潮選書

国立国会図書館レファレンス 田中嘉彦(2017年)「英国における国王と行政権」

黒岩徹(2013年)「危機の女王 エリザベス2世」新潮選書

帝国データバンク(2019年)「改元に関する企業の意識調査」

宮内庁ホームページ、英国王室ホームページ

プロフィル
高橋 徹( たかはし・とおる
 読売新聞調査研究本部主任研究員。政治部、経済部次長、静岡支局長を経て現職。ファイナンスMBA(早大)。事業再生実務家協会及び法と経済学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。

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