誰がトランプ再選を阻むのか

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 2020年の次期米大統領選まで1年以上あるのにもかかわらず、早くも前哨戦が過熱気味だ。ホワイトハウス奪還を誓う野党・民主党からは史上最多とされる二十数人が立候補を表明、党の指名獲得を目指して全米を東奔西走している。共和党のトランプ大統領も再選に向け、なりふりかまわぬ戦法に出る構えだ。政権を担って2年半、異形の大統領は国内外を振り回し続け、「岩盤」とされる支持基盤を持ちながらも世論調査の支持率は依然として低い。果たして民主党は再選を阻止できるのだろうか。

 南部フロリダ州マイアミに6月26、27の両日、民主党の有力者20人が集結した。来年11月3日投開票の大統領選に向けた、候補者による最初のテレビ討論会に参加するためだ。

 「トランプ氏の諸政策はひどい。減税も富裕層のためだけ。廃止に取り組む」(バイデン前副大統領)

 「彼(トランプ氏)は希有(けう)なウソつきで人種差別主義者だ」(サンダース上院議員)

 参加者たちは移民や地球温暖化、減税などで自らの目玉政策を強調しつつ、自分こそがトランプ氏の再選を阻止できる人間だとアピール。その合間には、ライバルの批判も繰り出した。

 討論会を中継したNBCテレビによると、この模様を、民主党予備選段階の討論会としては過去最多1810万人が視聴、関心の高さをうかがわせた。

本命不在で候補者乱立

2日間にわたって行われた米民主党のテレビ討論会で議論を交わす候補者たち(6月27日、ロイター)
2日間にわたって行われた米民主党のテレビ討論会で議論を交わす候補者たち(6月27日、ロイター)

 討論会後、それまで民主党支持者を対象とした世論調査で首位を快走していたバイデン氏の支持率が下がり、逆に人種差別への反対や富裕層への増税を訴えたハリス、ウォーレン両女性上院議員の支持率は上昇するなど、この2日間の発言だけで変動が見られた。今後、新たに名乗りを挙げる人が出る可能性もあり、民主党予備選は混戦模様だ。

 再選を目指す現職大統領に挑戦する選挙は、最初から不利な展開となる。それでも民主党から多数の候補者が名乗りを上げる理由について、ある共和党ロビイストは「相手を見れば、トランプ氏の支持率が低いから勝てるかもしれないと思う。身内を見ても、圧倒的な存在がいないから、これまた自分でいけるかもしれないと思う」と解説する。前副大統領、上下両院議員、州知事、市長、実業家、女性、黒人、同性愛者と候補者の経歴は多彩だが、「圧倒的なスター候補がおらず、小粒感が否めない」(日本の外務省幹部)との指摘が出る。

 元来、穏健中道派が主流だった民主党だが、昨年11月の中間選挙では急進左派系の候補が躍進した。中道派と左派の分裂が深まる中、乱戦を勝ち抜くのは誰なのか。現時点で、米メディアが注目する候補者のプロフィルを見てみよう。

「普通のジョー」のプラス・マイナス

ジョー・バイデン氏=ロイター
ジョー・バイデン氏=ロイター

 バイデン氏は4月25日にSNSで出馬表明。この中で、トランプ氏が再選されることがあれば「この国のあり方が根本的に変わってしまう」と政権奪還を訴えた。5月18日にペンシルベニア州ピッツバーグで開いた集会では、トランプ氏は最高司令官(Commander-in-chief)ではなく、「最高分断官(Divider-in-chief)と化している。彼を倒すことが何よりも重要だ」と対立姿勢を鮮明にした。

 バイデン氏が生まれた同州は、前回16年大統領選の勝敗を決したラストベルト(衰退した工業地帯)上の激戦州だ。バイデン氏はここに選対本部も構え、中古車のセールスマンを父親に持つ中流家庭に育った「普通のアメリカ人ジョー」を売り文句に、前回の大統領選でトランプ氏を大統領の座に押し上げた白人労働者階級の取り込みを狙う。

 バイデン氏にとっては、今回が3度目の挑戦だ。最初の1988年は、その前年に選挙演説で当時の英国労働党党首のスピーチを盗用した疑いなどが浮上し、撤退を余儀なくされた。2回目の2008年は緒戦のアイオワ州党員集会で5位に終わって断念したが、その数か月後にはオバマ候補のランニングメートに選ばれ、翌年から8年間、副大統領を務めた。

 バイデン氏は穏健中道派として知られる。弁護士から、1972年に29歳の若さでデラウェア州から上院に当選、6期36年を務めた。

 実はこの初当選直後に、妻と1歳になったばかりの長女を交通事故で失う悲劇に遭った。残された幼い長男と次男の世話をするため当選を辞退するべきか悩んでいた時、後に駐日大使となるマイク・マンスフィールド上院院内総務に説得されたことから、同氏に師事した。

 司法や外交といった主要委員会で委員長を務め、内政、外交両面で政策通として鳴らす。共和党と妥協し、議会を切り回す(すべ)も熟知する。

 ただ、少なからず指摘されていた弱点が最初のテレビ討論会で露呈した形で、このまま予備選を先頭で抜けられるかどうかは、まだ確実とはいえない情勢だ。

 一つは76歳という年齢だ。トランプ氏よりも三つ上で、「1期4年はできても2期8年は無理」との声が早くも聞かれる。白人男性という点でもトランプ氏との差別化は難しい。

 女性がらみの問題が出たという点も、トランプ氏と共通する。出馬表明に先立って、「後頭部にキスされた」「身体を触られた」などと、過去の不適切な行為を複数の女性から訴えられた。バイデン氏は「悪気はなかった」と釈明し、今後は距離の取り方に「より気を配る」として沈静化を図る。

 さらに、バイデン氏には失言癖もある。公職にあった期間が44年間と長期にわたる分、過去に遡って問題ある行動や発言が蒸し返されやすいともいえる。

 最もやっかいなのは、党内左派や若い世代との関係だろう。

 バイデン氏は5月の集会での演説で、「民主党内には怒りが渦巻いているが、怒りばかりを前面に出すのは誤りだ」と述べた。これが他陣営から、「バイデン氏は、現在の国のあり方に対する有権者の不満や怒りを分かっていない」との批判を招いた。

 バイデン氏は、医療保険制度「オバマケア」や地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」締結といったオバマ政権の実績を自らの功績と強調する。だが、ライバル陣営が富裕層への課税強化や大学教育の学費値下げといった若者世代にアピールする公約を掲げる中、パンチ力に欠けるとの指摘が出る。

 今のところトランプ氏は、バイデン氏の発言に最も敏感に反応し、一番のライバルと意識していることを印象づけている。お得意のツイッターで、つけたあだ名は「スリーピー(つまらない)ジョー」。国賓として来日した5月27日の安倍首相との共同記者会見でも、「ジョー・バイデンは厄災だ。経済でも軍事でも、オバマ大統領と一緒になって問題を作り出した」と場外戦で批判してみせた。

ニューフェース ベト&ピート

 バイデン氏が従来型の「民主党の顔」だとすれば、ニューフェースの代表格は、前下院議員のベト・オルーク氏(46)と中西部インディアナ州のサウスベンド市長ピート・ブティジェッジ氏(37)だろう。

ベト・オルーク氏=ロイター
ベト・オルーク氏=ロイター

 オルーク氏の名前が全米に知られるようになったのは昨年11月の中間選挙だ。共和党の金城湯池テキサス州で下院から上院へのくら替えに挑戦し、共和党の現職を得票率差で2・6ポイント差まで追いつめたのだ。

 193センチのスリムな長身と巧みな演説で「白人版オバマ」「ロバート・ケネディの再来」との異名を持つオルーク氏は、メキシコ国境に近いエルパソで、判事を父親に持つ家庭に生まれた。アイルランド系だが、通り名ベトは本名ロバートのスペイン語風愛称。メキシコが近く、スペイン語が広範に使われる地域ならではだ。

 スケートボードと音楽好きの少年はコロンビア大で英文学を専攻するかたわら、パンクロックのバンドを組み、プロとなることを夢見る。しかし、才能の限界を感じ、地元に戻って情報技術(IT)会社を起業。地方議員を経て2013年から3期、下院議員を務めた。

 世代交代と寛容な移民政策を訴え、トランプ氏との差を際立たせる。SNSを駆使した選挙活動はお手のものだ。ただ、善戦したとはいえ上院選で敗北したオルーク氏には、「1州で負けた候補が全米で勝てるのか」という疑問がつきまとう。

ピート・ブティジェッジ氏=ロイター
ピート・ブティジェッジ氏=ロイター

 一方のピート・ブティジェッジ氏は1982年生まれの「ミレニアル世代」だ。ハーバード大卒業後、ローズ奨学金を得てオックスフォード大でも学び、大手コンサルタント会社に就職した。対アフガニスタン戦争に情報将校として7か月間、従軍した経験もある。

 2011年に人口約10万のサウスベンド市長に当選。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、就任以来、廃業した工場やシャッター街化した商店街に中小のハイテク企業を呼び込み、下水道を整備するなどして市の失業率を11・8%から4・45%まで引き下げた。

 同性愛者であることを公言しており、出馬宣言の会場には「夫」の姿もあった。ソフトな口調ながら、的を射た現実路線の受け答えで、対話集会などで好感度を上げている。父親は地中海に浮かぶマルタ島からの移民で、本人もイタリア語やフランス語など複数の外国語を流暢(りゅうちょう)に操る。

 マイナス点は、全国的な知名度が依然、低いことと、地方の市長を2期しか務めていないことだろう。同性愛者がどこまで有権者に受け入れられるかも前例がないだけに注目点だ。

女性上院議員トリオ

エリザベス・ウォーレン氏=ロイター
エリザベス・ウォーレン氏=ロイター

 「トランプ氏という強烈な個性に対抗するには、女性候補がベストだろう」(在日米大使館筋)という見方もある。初の女性大統領を目指し、名乗りを上げた複数の女性候補の中で注目されているのは上院議員トリオだ。歴史的に見ても、上院議員から大統領になるケースは多い。

 マサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォーレン氏(70)は「反ウォール街の旗手」として鳴らす。3人の中では最も左派色が強く、富裕層の課税強化や巨大IT企業の分割が持論だ。中西部オクラホマ州の「中産階級の下の方」の家庭に育ち、結婚、子育てなどを経てハーバード大の人気教授(専門は破産法)になった。12年に上院初当選。税金を投じて学生ローンの返済を免除するという主張も若者から支持されている。

カマラ・ハリス氏=ロイター
カマラ・ハリス氏=ロイター

 カリフォルニア州選出のカマラ・ハリス氏(54)はジャマイカ系の父とインド系の母を持ち、ダイバーシティー(多様性)の代表選手をもって任じる。サンフランシスコの地方検事を経て、カリフォルニア州司法長官を務めた法律家だ。16年の選挙で上院に初当選、1期目の任期途中だ。「人々のために」をスローガンに、国民皆保険制度の導入、銃規制強化、中間層減税などを主張する。

 中西部ミネソタ州選出のエーミー・クロブシャー氏(59)は、バイデン氏同様、今回は数少ない穏健中道派の候補だ。スロベニア系で、エール大時代に、同州出身のモンデール副大統領のインターンとして働いた経験を持つ。弁護士や検察官を経て、06年に上院に初当選した。トランプ大統領が最高裁判事に指名したブレット・カバナー氏の指名承認公聴会では、同氏のセクハラ疑惑を冷静に追及し、好感度を上げた。ところが、その後、議員事務所スタッフに対する自身のパワハラ疑惑が浮上し、失速気味だ。

バーニー旋風の再来は?

 前回16年の民主党予備選で、予想外の「バーニー旋風」を巻き起こし、ヒラリー・クリントン候補を最後まで苦しめたサンダース上院議員(77)も再び出馬表明した。「経済・人種・社会・環境で、皆に公平さ(justice)をもたらす」がキャッチフレーズ。前回と同様、「格差是正」が目玉公約だ。大企業や団体からではなく、SNSを通じて個人から小口献金を集める手法も健在だ。

 ニューヨークのブルックリンでユダヤ系の貧困家庭に育った。シカゴ大時代、公民権運動や反戦運動に身を投じ、大学卒業後は大工、フリーの記者、教材販売など職を転々とした。バーモント州の市長から下院議員、上院議員へと活動の場を広げてきた。いずれも民主党の予備選に立候補して勝利した上で、独立系候補として共和党候補と競い、勝利している。

 「民主社会主義者」を自称し、国民皆保険制の導入に加え、希望する全国民を政府が公共事業を通じて雇用するという「国民皆雇用制度」のアイデアまで打ち出し、若い世代から支持を集める。

 ただ、若者の支持がじわじわと広がり、旋風にまでなった前回とは異なり、今回は「ワシントン政治のアウトサイダー」のうたい文句は使えない。清貧のイメージとは異なり、実は侮れない集金力があることも、新たな支持者獲得に向けては必ずしもプラスにはならないだろう。

民主党の「声なき多数派」はどこに

 昨秋の中間選挙で、民主党は下院(定数435)で議席数を41伸ばす235として過半数を制した。党勢盛り返しの原動力となったのは、急進左派系候補の躍進とされる。その代表格が、低所得者層のための社会保障充実を公約に掲げてニューヨーク州で当選し、最年少下院議員となったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏(29)だ。

 一方で、議会では中道派の民主党指導部が左派系議員の突き上げに苦慮する場面が出てきた。ロシア疑惑でトランプ氏の弾劾手続きを開始するか否かを巡る党内議論が一例だ。成立する見通しがなく、国民の反発も招きかねない弾劾に、ナンシー・ペロシ下院議長ら指導部は慎重姿勢で、左派系は「指導部は弱腰だ」と批判のトーンを高める。

 若者世代はSNSを通じ、左派系議員への支持を拡散させる。AOCの愛称で知られ、全米の若者の間で高い人気を誇る前述のオカシオコルテス氏は、地球温暖化と弱者対策を組み合わせた「グリーン・ニューディール」政策を打ち出し、財政赤字の拡大につながりかねない「現代金融理論」(MMT)を支持するなど、今や党の新しい顔の一人だ。

 だが、SNSなどで自分の思いを発信することのない、より年代の高い有権者が大統領選候補者に何を期待するかは、いまひとつ不透明だ。

 世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが今年1月公表した調査結果によると、共和党を支持する有権者の58%が「党はより保守的な方向に向かうべきだ」と回答したのに対し、民主党支持者は53%が「より中道の方向に」と答え、「よりリベラルに」とした40%を上回った。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(6月4日付)などの調査でも、民主党予備選で投票するとした有権者のうち、サンダース氏の主張に「違和感を覚える」「不安がある」と答えた人は36%で、ウォーレン氏に対しても33%だった。一方で中道穏健派のバイデン氏は27%にとどまった。財源を明示しないまま、ばらまきとも受け取れる政策を打ち出す左派系候補に、民主党のサイレントマジョリティー(声なき多数派)が必ずしも満足していないことがうかがえる。

 テレビ討論会前の6月中旬時点での民主党支持者を対象とした世論調査の平均値で見ても、バイデン氏を支持するとした人は32・4%で、サンダース氏の15・2%、ウォーレン氏の11・6%を上回っていた。

 さらに、「民主党最大の命題は、トランプ氏の再選を阻止すること」(同紙)という状況の中で、左派系候補が本選でトランプ氏に対抗できるのか――という疑問がつきまとう。共和、民主両党とも有権者の約3割に達する支持基盤は固いが、本選で勝利するには、残る約3割とされる無党派層の票を取り込むことが不可欠だ。あまりに左派的な主張をしていては、無党派層の大半を占めると見られる穏健派に警戒され、支持が広がらない可能性があるからだ。

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721833 0 読売クオータリー 2019/08/02 12:42:00 2019/10/31 15:16:32 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190730-OYT8I50042-T.jpg?type=thumbnail

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