「ソメイヨシノ」はどこからやって来たのか

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明治期からずっと続く起源探し

 ソメイヨシノの名前が世に出てからも、生い立ちを探る研究は、明治から大正、昭和、平成と120年近く続いてきた。植物学者たちは花や葉の形態を調べたり、交配実験を行ったり、分子生物学の進展に伴ってDNAを分析したりと、その時代に合った様々な手法で取り組んできた。一連の研究を時代ごとに振り返ってみよう。

【明治期】 原産地のわからない野生種説

 1901年(明治34年)、東京帝国大学の松村任三博士によって、ソメイヨシノの「プルヌス・エドエンシス」(Prunus yedoensis)という学名が発表された。プルヌスはサクラの属名、エドエンシスは江戸という場所で見つかったことを意味する種名だ。ただし、この頃はまだ野生の桜について研究が深まっておらず、ソメイヨシノも原産地がはっきりわからない野生種の一つと考えられていた。

【大正期】 エドヒガンとオオシマザクラの雑種説

エドヒガン(写真上)とオオシマザクラ(同下)(ともに森林総合研究所提供)
エドヒガン(写真上)とオオシマザクラ(同下)(ともに森林総合研究所提供)
エイシュウザクラ(森林総合研究所提供)
エイシュウザクラ(森林総合研究所提供)

 大正時代には、花や葉の特徴を手がかりに「染井村の吉野桜」の正体を推定する植物学者が出てきた。

 屋久島にウィルソン株という屋久杉の巨大な切り株がある。米国の植物学者E・H・ウィルソン博士が報告したことからこの名前がついているが、このウィルソン博士が1916年(大正5年)に、ソメイヨシノは野生種のエドヒガンとオオシマザクラの雑種であるとする説を発表している。しかし当時の植物分類学では雑種という考え方は奇異で、ウィルソン説は無視されていた。

【昭和期・戦前】 韓国・済州島起源説

 昭和になると、韓国・済州島起源説が提唱された。植物分類学の第一人者だった小泉源一・京都帝国大学教授が、済州島産の桜の標本にソメイヨシノに似たものを見つけた。この桜は古くから同島で見られたといい、地元ではワンボナムと呼ばれていた。1932年(昭和7年)、小泉博士は済州島を現地調査し、ワンボナムの自生を確認。ワンボナムを済州島の古い別名エイシュウからとったエイシュウザクラと呼んだ。また、日本に生えているのと同じソメイヨシノも済州島に自生していたと報告。そのうえで、同島から日本に移入されたものではないかと推定した。

【昭和期・戦後】 雑種説を交配実験で確認

ヤマザクラ(写真上)とオオヤマザクラ(同下)(ともに森林総合研究所提供)
ヤマザクラ(写真上)とオオヤマザクラ(同下)(ともに森林総合研究所提供)

 この済州島起源説は、植物分類学の権威が唱えただけに学界でも有力視されてきたが、戦後の1960年代になって見直されることになる。野生の桜の研究が進み、日本には10の野生種があることがわかっていた。前出のエドヒガン、オオシマザクラのほか、ヤマザクラ、カスミザクラ、オオヤマザクラ、マメサクラ、タカネザクラ、チョウジザクラ、ミヤマザクラ、カンヒザクラで、この中からソメイヨシノの両親を探す科学者が出てきた。

 国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の竹中要博士は戦後、桜の人工交配実験を様々に行い、花や葉の形態的特徴を観察して、ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの雑種とみられると1962年に報告した。竹中博士は遺伝研の敷地内に、人工交配によって作りだした桜や各地の桜を植えて観察を行っていた。現在では立派な桜並木になり、「遺伝研の桜」といえば地元では知らない人がいないほど有名な花見の名所になっている。

【平成期】 DNA分析で裏づけ

 平成の時代に入ると、ソメイヨシノの生い立ち研究は新たな段階を迎える。分子生物学の発展によって、DNA分析で雑種説を裏づける研究が登場してきた。花や葉の形態を調べる過去の研究でソメイヨシノは雑種という考え方が定着してきたものの、本当にそうなのか、「他人のそら似」ということはないのか、最新のDNA分析で科学的に確かめてみようというわけだ。

 桜の栽培品種は、いい性質をそのまま引き継ぐため、接ぎ木という人為的な方法で増やすことが多い。とはいえ、ソメイヨシノのような栽培品種であっても、もとをたどれば自然界で、ある桜の雄しべで作られた花粉が、風や虫によって別の桜の雌しべに運ばれ受粉して、というプロセスを経て誕生したと考えられている。ソメイヨシノの父親(花粉を飛ばした個体)と母親(受粉した雌しべを持つ個体)をDNA分析で推定できないのだろうか。

 先駆けとなった京都大学グループの研究(1996年)でわかったのは、ソメイヨシノの母親がエドヒガンということだった。どのように調べたのだろう。通常の細胞核DNAとは別に、細胞内の小器官にある独自のDNAをみる手段があるのだ。例えば光合成を担う葉緑体(小器官)にあるDNAは、母方からのみ遺伝する特徴を持つ。細胞核のDNAは、父親のDNAと母親のDNAがどうブレンドされて遺伝するかは偶然に左右されるが、この葉緑体DNAは、どの種が父親であろうと変わることなく子に遺伝する。比べてみるとソメイヨシノとエドヒガンの葉緑体DNAは一致する。これでエドヒガンが母親だということが突き止められた。

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431999 0 深読み 2017/03/19 10:53:00 2017/03/19 10:53:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20170317-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

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