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早期スポーツエリート教育は「悪」か

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慢性障害の発症率が高まる

 スポーツエリート教育、早期の競技専門化による弊害として、メンタル面の問題のほかに、もう一つ指摘されるのがメディカル面の問題です。練習などに伴うけがや障害、特に慢性障害の発症率が高まることが報告されているのです。

 要因の一つに、低年齢のうちに特定の競技に専門的に取り組むことで、同じ動作をくり返すことが挙げられています。野球で言えば、投球やスイングなどの動作です。そのため最近は、子どものうちに多様な動きに対応するために、様々なスポーツや遊びを経験することが推奨されています。

 ただし、この研究では、何歳から競技を専門化したかが検討されておらず、早期専門化がどの程度、影響しているかは明らかではありません。また、どのような指導、あるいは医学・科学的サポートが受けられていたかも不明です。

 ともあれ、IOCの提言にあるように、子どものスポーツ指導において適切なコンディショニングや傷害予防の指導は必須です。子どもの競技の早期専門化とスポーツ傷害発症との関係を今後も調査研究しつつ、適切なサポートが享受できる環境を作る必要があると思います。

“早期エリート競技”の共通点

写真はイメージ
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 フィギュアスケートや卓球、水泳といった競技では、オリンピックで活躍するようなトップ選手の多くが、ごく低年齢のうちに競技を始めている印象があります。そうした競技の多くはピークを迎える年齢が低いために、どうしても早期から専門化してしまう傾向にあることが、その理由として考えられます。

 水泳に関しては別の理由もあると思います。日本オリンピック委員会(JOC)が行ったリオデジャネイロオリンピックに出場した日本人選手対象の調査で、6歳までに経験したスポーツで最も多かったのは水泳でした。水泳は学校体育でも行われることや、親が子どもにやらせたい習い事として常に上位に位置づけられていることが影響しているものと見られます。

 しかし、これらの競技でも、遊びや多種目のスポーツを経験することが将来のパフォーマンス向上につながる可能性は十分あるでしょう。専門的なトレーニングを行っているという子どもたちにも、低年齢のうちは多様な遊びや運動を経験することを勧めたいと思います。

 実際に、先のリオデジャネイロオリンピック出場選手対象のアンケートでも、「多様なスポーツ経験が現在の競技に役立っているか?」との問いに対して、男女ともに半数以上が「役に立った」と回答していました。

「ゴールデンエイジ」の正しい理解

 また、幼少期の多様な運動経験は「ゴールデンエイジ理論」、すなわち、スポーツをする上で技術がしっかりと身につく時期の効果を高めることにもつながります。

 この「ゴールデンエイジ」の前段階は「プレゴールデンエイジ」と位置づけられ、運動の多様性を獲得しておくための重要な時期だと考えられています。

 一方、ゴールデンエイジ理論が広く知られる過程で、いくつかの誤解も生じています。一つは、ゴールデンエイジはあくまでも技術獲得の敏感期であり、臨界期ではないことです。すなわち、この時期を過ぎると技術が身につかないというわけではないのです。この解釈を間違えると、指導者や保護者は「この時期しか技術が身につかない」と思い込み、長時間の単一的な技術練習が重要、と思い込んでしまうかも知れません。

 また、ゴールデンエイジと呼ばれる年齢(暦の上での年齢)には幅があります。それは、この時期は個々の成長段階によって異なるためで、発育発達の観点からは身長が急激に伸びる前の時期に相当すると考えられています。

 すなわち、ゴールデンエイジにおけるトレーニング効果はそれ以前の運動経験や、その時の成長段階によって異なる可能性が大いにあるのです。

 技術獲得の敏感期は大切であることは間違いありません。この時期を大切にしつつ、その前後の期間も含めた長い目で子どもの技術が養われるようにサポートしてあげるとよいでしょう。

スポーツエリート教育への提言

 以上のように、子どもたちが早期に競技を専門化すること、スポーツエリート教育を受けることによる問題点は、いくつか挙げられます。一方で、子どもが低年齢のうちに多様なスポーツや遊びの経験をすることは、その後の運動能力向上や競技パフォーマンス向上にも有用であることは間違いありません。

 しかし、これらのことだけを根拠に「スポーツの早期専門化は悪」で「複数のスポーツをすることは善」と単純に二元論的に論じるのは、好ましい議論とは言えません。

 複数のスポーツであっても、それぞれで負荷のかかるトレーニングをさせられたら、けがの発症やバーンアウトにつながる可能性もあるでしょう。一方で、早期に専門化していても、その環境の中で子どもの自発的な取り組みや仲間との適度な競争と協調があり、トレーニングの量や強度、タイミングが適切に調整されるなどの条件が整えば、そのスポーツを心から楽しみながら競技パフォーマンスを向上させることができると思います。

 先に紹介したリオデジャネイロオリンピック出場選手対象のアンケートでも、各選手が専門競技を始めたきっかけの多くは「楽しそうで面白そうだったから」でした。

 「早期スポーツエリート教育の是非」というテーマをきっかけに、子どもたちがスポーツをする環境を大人はどのように作っていけばよいのか、指導者はどのようなコーチング教育を受けて子どもと向き合うべきかなど、今後、議論を広げていくことが必要だと考えています。

参考文献

1)Bergeron FM et al. (2015). International Olympic Committee consensus statement on youth athletic development. British Journal of Sports Medicine, 49, 843-851. (http://bjsm.bmj.com/content/bjsports/49/13/843.full.pdf)2) Jayanthi AN et al. (2015). Sports-specialized intensive training and the risk of injury in young athletes. American Journal of Sports Medicine, 43, 794-801.3) World Health Organization. Adolescent health. (http://www.who.int/maternal_child_adolescent/topics/adolescence/dev/en/) (April-1st-2017 access).4) Vaeyens R et al. (2009). Talent identification and promotion programmes of Olympic athletes. Journal of Sports Sciences, 27, 1367-1380.5) Ericcson KA et al. (1993). The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychological Review, 100, 363-406.6) Simon HA & Chase WD. (1973). Skills in chess. American Scientist, 61, 394-403.7) Gullich A & Emrich E. (2014). Considering long-term sustainability in the development of world class success. European Journal of Sport Science, 14, S383-S387.8) Hirose N. (2009). Relationships among birth-month distribution, skeletal age and anthropometric characteristics in adolescent elite soccer players. Journal of Sports Sciences, 27, 1159-1166.9) Buenen G et al. (1997). Development and tracking in fitness components; Leuven longitudinal study on lifestyle, fitness and health. International Journal of Sports Medicine, 18, S171-S178.10) 日本オリンピック委員会. (2017). トップアスリート育成 強化支援のための追跡調査報告書(第一報).

プロフィル
広瀬 統一( ひろせ・のりかず
  早稲田大学スポーツ科学学術院教授。日本体育協会公認アスレティックトレーナー。早大人間科学部を卒業後、東大大学院総合文化研究科の博士課程を修了。専門はアスレティックトレーニングと発育発達。ジュニアからユース世代のサッカー選手のフィジカルコーチとして、ヴェルディ川崎(現 東京ヴェルディ)などで活動。2008年からはサッカー女子日本代表フィジカルコーチとして女子サッカー選手のサポートを行っている。著書に「サッカー ボールを使ったフィジカルトレーニング」(ベースボールマガジン)。「女子の体幹レッスン: 美しい身体になる筋肉のつけ方」(学研パブリッシング)。「疲れにくい体をつくる非筋肉トレーニング -運動効率3割UP!の『全身協調力』を鍛えてみよう-」(角川書店)など。

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