高度上空の核爆発で起きる「電気がない世界」の恐怖

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北朝鮮も「電磁パルス攻撃」を想定か

北朝鮮による地対地中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験。5月15日に朝鮮中央通信によって配信された写真(ロイター)
北朝鮮による地対地中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験。5月15日に朝鮮中央通信によって配信された写真(ロイター)

 核とミサイルの開発を続ける北朝鮮は、米国に到達する大陸間弾道弾(ICBM)の取得を視野に置いているとみられ、米国も深刻な脅威と受け止めている。ただ、共和党綱領でも核兵器を電磁パルス攻撃に使うとの懸念を指摘されていた北朝鮮は、既にミサイルを地上40~400キロ・メートルに打ち上げる技術は備えている。5月14日に打ち上げた中長距離弾道ミサイルの高度も2000キロ以上に達したとみられている。弾頭を小型化してミサイルに搭載する技術もすでに習得しているとの見方もある。電磁パルス攻撃は、核保有国の中国、ロシア、そして米国も冷戦期以来研究を続けているとされる。北朝鮮も、電磁パルス攻撃という核の使い方を認識していると考える方が現実的だろう。

 むしろ、保有する核弾頭の数が限られている国や独自には核開発能力を持たないテロ組織にとって、小型核一発でも相手国に致命的打撃を与える可能性がある電磁パルス攻撃は、効果的な攻撃方法の一つとみることもできる。

 軍事専門家によると、テロ組織が核弾頭を上空に打ち上げようとする場合、貨物船舶で標的とする国の沿岸に接近し、船内に隠し持つ発射装置を使うやり方などが考えられる。観測用気球で弾頭を上空40キロ・メートル程度まで運び、遠隔装置で起爆することも可能だと指摘する専門家もいる。

 米議会では、電磁パルス攻撃を想定した重要インフラ防護に関する法案が15年に下院に提出されたが、まだ成立をみていない。昨年の共和党綱領はこの法案の早期成立を訴えるとともに、連邦政府と各州政府に対しても重要インフラ施設の保護に乗り出すよう求めている。トランプ大統領は就任前、「サイバーその他の手段による攻撃から死活的に重要な社会インフラを守る」と語ったことがある。インフラ投資や国防関連予算の増額に強い関心を示すトランプ氏が今後、電磁パルス攻撃を念頭に置く施策を打ち出すかどうか注目される。

 日本でも、電磁パルス攻撃への対策を訴えた研究機関による提言がある。一般社団法人「日本戦略研究フォーラム」が昨年発表した「高高度電磁パルス攻撃によるインフラ破壊の脅威への対処」は、電磁パルス攻撃を「大震災をはるかに超える広範囲の社会インフラ等の破壊をもたらす新たな緊急事態」として認識することを国民に警告した。その上で、(1)核兵器の全廃と拡散防止を目指す外交的取り組み(2)各国間のテロ組織などの情報共有や、攻撃が起きた際の相互態勢作り(3)国内インフラの防護体制構築――の3点を対策として提示した。

電磁パルス現象は「太陽嵐」でも発生

 実は、電磁パルス現象は核爆発だけでなく、太陽表面の巨大爆発で起きる磁気嵐(太陽嵐)が地球を直撃した場合にも発生する。観測史上最大の1859年の磁気嵐直撃では、普及し始めていた電信機器などに深刻な被害が及んだ。近年も、1989年にカナダで磁気嵐によるとみられる停電が起き、2012年にもかなりの規模の太陽嵐が地球近くを通過していたことが米航空宇宙局(NASA)の観測でわかっている。この時直撃していれば、人類存続に関わる危機になっていた可能性も取り沙汰されている。

 日本戦略研究フォーラムの提言は、核による電磁パルス攻撃への備えは、近い将来再び起こる可能性が高い太陽嵐直撃への備えにもなると強調する。研究グループ代表を務めた鬼塚隆志氏(元陸上自衛隊化学学校長)は、「コンピューターやインターネットの長所を追い求めるだけでなく、負の面にも気づくべきだ」と指摘。電子機器依存の高まる現代社会で突然電力が失われた時に起こる事態を想定しておくことは、国土強靱(きょうじん)化を語る上で、ぜひ必要な視点だと力説する。鬼塚氏は、電磁パルス攻撃からの防護を国土全体の社会インフラに対して施すのは困難でも、一部の地域で発電、送電施設を電磁パルスの影響が及ばない地下に埋設したり、パソコンなどの電子機器に十分な防護を施したりしておくことも提唱する。拠点的な都市や地区だけでも電力が生きていれば、全土の復旧に向けた足がかりになるはずだ。

 「電気のない世界」という一見、絵空事のような事態が実は十分に起こり得るのだと認識し、それが起きた時、どのような影響が市民生活と社会全体に及ぶのかを産官学一体で協議してみることが、有効な対策の出発点だろう。核弾頭やミサイルを使う電磁パルス攻撃という人為的脅威を踏まえて、国際社会がテロとの戦いや核拡散防止体制を講じる中で、「電気のない世界」をもっと深刻な問題として話し合うべきではないだろうか。

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プロフィル
永田 和男(ながた・かずお)
 読売新聞調査研究本部主任研究員。専門分野は国際情勢。ブリュッセル、ワシントン、ニューデリー、バンコク各特派員。欧州通貨統合、米同時テロとイラク戦争、インドの経済成長、タイではクーデターを目撃した。

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428771 0 深読み 2017/05/24 05:20:00 2017/05/24 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20170523-OYT8I50029-T.jpg?type=thumbnail

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